LAST LOVE(中編)

しばらくして、三蔵が部屋を出て行くのを、八戒も悟空も何も言わずに見送った。

三蔵は真っ直ぐ建物の外へ出る。
流石にこんな夜更けでは、子供を遠くに連れ出すわけには行かないだろう。
案の定、悟浄と少女の姿は、宿の中庭で見つかった。
悟浄は芝生の上で、少女を抱きかかえるようにして座っていた。何か、話している様だが遠くてよく聞き取れない。

『聞こえませんねぇ。もう少し近寄らないと』

不意に背後から小声で囁かれ、三蔵は不覚にも驚いてしまった―――無論、顔には断じて出さないが―――しっかり、悟空も付いて来ている。

『気配を殺して近付くな。撃たれたいか?』
『だって、そうじゃなきゃ悟浄に気付かれるでしょう。貴方だって、気配消してるじゃないですか』
『しーっ、あんま喋ってると、悟浄にバレちゃうよ』

怪しい三人組は、気配を殺しつつ、悟浄に気取られないように背後の植え込みまで移動したのだった。
ようやく、会話が聞き取れる位置にまで辿り着く。

「ねぇ、ごじょおは、あのきんいろのおにいちゃんがすきなのぉ?」
「な、何言い出すんだよ、このマセガキ」
 

(何うろたえてやがるんだ。ハッキリ言ってやれ、ハッキリ!)
 

三蔵は内心苛々状態だ。だが、これはある意味悟浄の本音を聞けるチャンスとも言えなくもない。

「すきなのぉ?」
「まだ、そーゆー話はお嬢ちゃんには早いって。も、ちっと大きくなったら、な?」
 

(‥‥あの野郎、誤魔化しやがったな‥‥)
 

三蔵の周りの気温が下がる。八戒と悟空は凍えそうなくらいの寒さを身をもって感じていた。

絽香の顔が、ぱっと輝く。

「じゃあ、あのね、あのね、絽香がおっきくなったらね、およめさんにしてくれる?あのおにいちゃんより、もっとたくさんだいすきになってくれる?」

そう言って、ちゅ、と悟浄の唇に可愛いキスをした。思わず飛び出そうとした三蔵を八戒が制止する。

『ちょ、ちょっと三蔵!落ち着いてくださいよ、大人気ない』
『るせぇ!ええい、は・な・せ!あのガキ、一度シメる!』
 

『なあ‥‥何で、悟浄黙っちゃったんだろ?』

悟空の疑問に、三蔵と八戒は小声でのバトルを中止し、思わず顔を見合わせた。
確かに、普段の悟浄なら子供の機嫌を取るために「ああ、はいはい。好きになるから、せいぜいイイ女になりなよv」とか平気で言って、キスのひとつもくれてやりそうなものなのに。少女の言葉に、黙り込んでしまっている。

「ごじょお?」
顔を覗き込む絽香と、悟浄は真っ直ぐに視線を合わせた。ゆっくりと、口を開く。

「‥‥ごめんな。それは、無理だわ」
「どおして?ごじょお、絽香のことキライ?」
「嫌いなんかじゃねぇさ。きっと、大きくなったら絽香は美人になるだろな。また会いてぇよ」

「?」と小首を傾げる少女の髪を、優しく撫でる。
「他の事なら、どんな約束でもしてやれる―――でも悪ィ。それだけは嘘吐けねぇんだわ」

今まで見せたどの表情よりも、穏やかで、それでいて少し寂しげに、悟浄は笑った。

「あいつ以上なんて、ありえねぇ。俺にとって、あいつは最初で―――」

そして悟浄は、言葉を切った。

なんてな。ガキに、何言ってんだろね、俺。悟浄はそう呟くともう一度絽香にゴメンな、と告げた。
 

 

 

「三蔵、俺たち先に部屋に戻るから」
「ああ」
「あまり、遅くならないで下さいね」
「ああ」

八戒は、悟空を促すとその場を離れた。
去り際に三蔵の方を伺うと、未だ悟浄を凝視したまま動かない。だが、三蔵を取り巻く空気が柔らかいものになったのは一目瞭然だった。
知らず、八戒も優しい微笑を浮かべていた。ふと見ると、悟空も自分を見つめて笑っている。嬉しそうな、笑顔だった。

八戒と悟空は、無言で笑いあい、そのまま部屋へと戻った。
 

 

 

 

「おい」

背後から急に声をかけられて、悟浄の心臓は跳ね上がった。
余人なら、ここまで動揺しない。よりによって、今、三蔵の顔を見てしまったら。
先ほどの自分が言いかけた科白を思い出し、密かに赤面する。辺りが暗くて、助かった。

「いつまでそんなところにいるつもりだ。もう戻れ。ガキはとっくに寝る時間だぞ」
「ああ、うん。そうだな」

立ち上がろうとする悟浄の服を、絽香が必死で掴んできた。困り果てた様子の悟浄に、三蔵が声をかける。

「そのガキも、一緒に連れてこい」
「!?いいのかよ!?」
「何か、文句でもあるのか」
「いや!ないない!」
そして再び少女を抱き上げると、宿の扉をくぐった。
 

 

それから、恐縮する絽香の両親に断り、部屋に連れて来て、ベッドに寝かせた。悟浄はずっと、少女に添い寝してやっている。三蔵は、部屋の隅で椅子に腰掛け、僅かな明かりの下で新聞を読んでいた。
ふと、悟浄の気配が近付く。

「眠ったか?」
「ああ。さんきゅ、な。三蔵」
「何が」
「あの子、部屋に置いてくれてさ」
「寂しいんだろ。両親が仕事にかかりっきりだ、無理もねぇ」
「うん‥‥。何かさ、あの子、自分だけに優しくしてくれる誰かを探してるみてぇなんだわ。本当は両親に甘えたいんだろうケド」
「その『誰か』になるつもりか?」

三蔵の言葉に、悟浄がかすかに笑う気配がする。

「お前、また目が悪くなるぜ?こんな暗いトコで新聞なんて」

手を伸ばし、こちらを見ようともしない三蔵の眼鏡を外す。ようやく三蔵が目を上げた。視線が、絡み合う。
三蔵は、無言で悟浄を引き寄せ、向かい合う形で自分の膝に座らせた。

「重くねぇ?」
「いや」

そのまま、唇を重ねる。軽く触れ合う事から始まったそれは、次第に深く、濃厚なものになっていく。
三蔵の両頬を包み込むように手を添え、口付けに夢中になっている悟浄のベルトに手をかける。

「‥‥おーい三蔵。今は、マズいって」
「何で」
「ガキがいるんだぜ?」
「お前が声を出さなきゃ、問題ない」
「って、お前‥‥っ!」

手の動きを止めようとしない三蔵に、悟浄は焦った。が、ズボンの上から自身をなぞられ、腕から力が抜ける。

「体は素直だな」
るせぇ、と反論しようとしたら、口に指を突っ込まれた。舐めろという事らしい。
ゆっくりと、舌を這わす。
三蔵は、もう片方の手で悟浄を高めてやりながら、シャツの上から胸の突起を舌で嬲っていた。

「ん‥‥うくっ‥ん」
眉根を寄せて快感に耐えながら、指をしゃぶる悟浄の姿に、三蔵の体も熱を持ち始める。もっと、乱れた顔が見てやりたくて、三蔵は指を悟浄の口から引き抜いた。はだけたズボンの隙間から後孔にあてがい、ゆっくりと中へと進める。
声にならない悲鳴を上げて仰け反る悟浄の喉に吸い付くと、そのまま耳朶まで舐め上げ、軽く噛んだ。

悟浄、と囁きを一つ落とす。
「‥‥俺もだ」
「な、に‥‥が」
「俺も、お前が最初で最後だ」
「お前!聞いて‥‥んあっ!」
「デカい声出すな。絽香が起きる」
「てめぇ、がっ‥‥っ!」
「声、抑えてろよ」
「っ!く‥‥んんっ!‥‥っ!!!」
前と後ろで手の動きを激しくされ、悟浄の意識は半ば飛びかけた。―――その時。

 

「パパ‥‥ママ‥‥」

 

はた、と二人は動きを止めた。恐る恐るベッドで眠る少女の様子を伺ったが、どうやらただの寝言のようだ。悟浄は、荒い呼吸を整えるために、何度も大きく息をした。

「‥‥やっぱ、パパとママが恋しい、か‥‥。ちょっと俺、両親の所まで、運んでくる、わ」
「俺が行く」
「嘘だろ!お前が?‥‥何か悪いもんでも食ったんじゃねぇ?お前」
あまりの言い様に、三蔵のこめかみに青筋が浮かぶ。

「その状態で外に出る気か、貴様」

悟浄のものは、三蔵の愛撫によって既に形を変えていた。紅い瞳は快感で潤み、揺らめいて三蔵を誘っている。

「‥‥オネガイシマス」
悔しいが、ここは三蔵の意見が至極もっともだ。火がついてしまった体を持て余しながら、悟浄は三蔵の上から降りようとする。それを、三蔵は引き止めた。

「すぐ戻る――待てるな?」

囁いて、宥める様にキスをした。
 

 

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