LAST LOVE
LAST LOVE(前編)
玄奘三蔵は、苛立っていた。 部屋中に響く、子供の声。 苛々苛々苛々苛々苛々苛々。 「ねぇ〜。おそとにいきたいのぉ」 苛々苛々苛々苛々苛々苛々苛々苛々。 バシィ、と遂に三蔵のハリセンが炸裂する。 「んだよ痛ぇな!」 う、と三蔵は言葉に詰まる。 そうじゃない。出て行って欲しいのは、そのガキだけだ。などという事は、口が裂けても言えるものではない。 「なあ〜、絽香。このおじちゃん、怖いよなぁ〜。悟浄ちゃん怒られちゃったから、お外に散歩に行こうな〜」 誰がおじちゃんだ、誰が。 三蔵が再びハリセンを構える気配を察知して、悟浄は絽香と呼んだ子供を抱き上げると、スタコラと部屋を出て行った。 『こんの、クソガキ‥‥!』 閉まるドアに、三蔵はハリセンを投げつけた。
そもそも、この宿を選んだのが間違いだったのだ。三蔵は、今になって思いっきり後悔していた。ここは大きな街だ。宿は豊富にあったのだ。なのに、何故この宿を選んでしまったのか。 食事の時も、風呂の時も、絽香は悟浄の側を離れようとしない。 悟浄も、口では何のかんのと煩がっていたが、結局は絽香に付き合ってやっている。悟浄が手を伸ばしてくる子供を、突き放せるはずが無い。 「申し訳ありません。お客様にこんなに懐くのは珍しいんですけど‥‥」 すまなさ気に言う宿の女房に、
「三蔵‥‥‥怖いよ、顔」 考えが顔に出ていたのだろう、悟空は本気で怯えている。それでも果敢に三蔵に話しかけるのは、流石に付き合いが長いせいか。 ―――畜生。面白がってやがるな。 三蔵の胸中は荒れに荒れていた。
「可愛いじゃん、絽香。きっと親にあんまり構ってもらえなくて、寂しいんだよ」 確かに、それはあるだろう。だが、お前らは騙されている!! 部屋を出て行くときの、あの子供の笑顔。あれは絶対に計算ずくの確信犯だ。
悟浄たちが部屋を出て行った後、三蔵はやたら不機嫌な顔で煙草を立て続けにふかしていた。思わず八戒は苦笑する。 「そんなに気になるなら、様子を見に行ったらどうです?」 実は八戒もあの少女が、完全に無意識から発せられる無邪気さで、悟浄に接しているとは思っていなかった。僅か三歳ではあったが、そこには女性特有の媚としたたかさが確かに感じられる。それこそ、無意識なのだろうけれど。 (『女性』って、本能なんですねぇ‥‥) つい、感心してしまう。だが逆を言えば、そこまでしても誰かに側にいて欲しい、という事だ。 「誰かを必要とする心に、大人も子供もないのかもしれませんね‥‥‥」 八戒の呟きに答えを返す代わりに、三蔵はゆっくりと煙を吐いた。
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凛様に頂いたリクは「悟浄争奪戦」だったハズなんですが。ただのヤキモチ三ちゃんに///
以前友人が幼い我が子を評して、
「生まれたときから女は女として行動している。女の計算をちゃんとしている」
と、言っていたのを参考にしました。
ふーん、そうなのかー、とその時は聞き流してましたけど。まさかこんなところで役に立つとは(爆)