WAKE UP!(8)

栄泉は地下にある懲罰房へ入れられた。何度確認しても、悟浄の術を解く方法は無いの一点張りだ。
名を呼んでも、揺すっても叩いても、悟浄は目を覚まさない。時折、眉根を苦しそうにゆがめてはうめく。苦しい夢を見ていることが伺えた。

『三蔵様をたぶらかした制裁を加えた』と言う栄泉に、三蔵は、己を責めた。
自分のせいだ。奴を牽制したつもりが、逆に煽ってしまった。

――俺が悟浄をこんな目にあわせちまった――

両手を強く握り締める。だが、このまま終わらせるつもりはない。
「俺が、必ず連れ戻す」
目の前に横たわる悟浄の髪に口付け、誓った。
 

 

 

「夢に入る?悟浄の夢にですか?」
「そんな事、出来んの?」

三蔵から出された提案は、悟浄の意識の中に入り込み、内側から目を覚まさせる、というものだった。

「今まで、やったことはないがな。うまく悟浄の意識と同調できれば、可能なはずだ」
「それは、危険なものではないんですか?その、もし、失敗したら」
「ああ、俺も一緒に眠り続ける事になるな」
「そんな!三蔵!」

「1日たっても、俺たちが目を覚まさなかったら‥‥頼めるか」

愛用の小銃を差し出されても、八戒は動くことが出来なかった。
撃てと言うのか、三蔵と悟浄を。自分にはそんなことは出来ない。

八戒の葛藤を余所に、横から腕が伸ばされた。
三蔵から小銃を受け取ったのは、意外にも悟空だった。

「預かっとくよ。けど、これで三蔵と悟浄を撃つためじゃあない。帰って来るんだろ?二人とも。それとも、悟浄を連れて帰って来る自信が無いの?普段態度でかいクセに案外情けねーのな、三蔵」

「悟空‥‥」

三蔵の左手が悟空の頭に乗せられる。‥‥‥左手?

スパーン!

しっかりと三蔵の右手に握られたハリセンが、悟空の頭を直撃した。もちろん左手は引っ込められている。

「ずりーぞ!フェイントじゃんか!」
「やかましい!誰にものを言ってるんだ、この馬鹿猿が!ソイツちゃんと大事に持っとけ!壊したら只では済まさんからな!」
「わーったよ、ぶつことないだろー」

頭をさすりながらぶつぶつと文句を言う悟空の姿に、適いませんねぇ、と八戒は心の中で呟いた。先程までの悲壮な空気が、嘘のように無くなっている。

「始める‥‥静かにしてろよ。外界からの刺激がどう影響するか分からんからな」
「はい、お気をつけて」
「いってらっしゃーい」

まるで煙草でも買いに行くかのような声に見送られ、それは始まった。
 

 

 

三蔵は悟浄の枕元に置かれている椅子に腰掛け、2、3度悟浄の髪を梳いてから、そのまま悟浄の額に片手を乗せた。目を閉じ、真言を唱えながら意識を集中していく。
しばらくすると、三蔵の体が大きく傾ぎ、横たわる悟浄の側に倒れこんだ。
どうやら夢に、入ったらしい。

八戒と悟浄は黙って見守っていた。ふと、八戒が隣を見やると、悟空の肩がわずかに震えているのが分かった。拳を握り締め、視線だけは真っ直ぐ三蔵を見据えている。
自分にとって絶対的な存在である三蔵が、帰って来ないかもしれないのだ。怖くないはずがない。
わざと明るく振るまった悟空の心を思い、八戒はそっと悟空の手に自分の手を重ねた。
振り向いた悟空に、目だけで告げる。

(大丈夫ですよ、あの二人なら)

それが通じたのだろう、悟空は八戒の手を強く握り返して、笑った。
 

 

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