WAKE UP!(6)

荒い呼吸を整えながら、悟浄はうまく働かない頭で必死に考えていた。
目の前には、心配そうな顔をして自分を覗き込んでいる三蔵の顔がある。
ああ、良かった。夢から覚めた。こっちが現実だ。三蔵に心配かけちまったな。
大丈夫だって言わないと。
もう、夢は終わったんだから。ただの夢なんだから。
 
「さんぞ‥」
 

『お前を愛する奴なんて何処にもいやしねえよ』

 

三蔵から発せられた言葉に、呼吸を忘れた。
急激に、フラッシュバックする夢の記憶。夢と同じ三蔵の科白だ。
そんな馬鹿な。こっちが、現実のはずなのに。
 

『お前なんざ、俺が本気で相手するとでも思ったのか?』

 

繰り返される、夢と同じ言葉。じゃあ、じゃあまさか、この次の三蔵の科白は‥‥‥。
―――イヤダ、キキタクナイ。
 

『生まれてくるべきじゃなかったな』

 

‥‥さ‥んぞ‥‥う‥
 

 

『目障りだ、死ね』
 

 

 

――――あああああああああああああ!!!

 

悟浄は、絶叫した。
 

 

 

 

「悟浄!どうした?おい、悟浄!」
耳を塞ぎ、叫びながらも自分の腕から逃れようとする悟浄を、三蔵は無理矢理押さえつけた。が、人間と妖怪との力の差は歴然で、すぐに跳ね除けられる。
完全に錯乱し、尚も暴れ続ける悟浄の頬を、三蔵は思い切り張り飛ばした。

「しっかりしろ!俺がわからないのか?!」

何とか暴れるのを止めた悟浄の顔を覗き込む。そして三蔵は、言葉を失った。
悟浄の目じりから、一筋の涙が零れ落ちたのを見て。
「三蔵‥‥」
痛々しく、悟浄は笑った。――と、そのまま、がくりと意識を手放した。

 

悟浄が失神したのとほぼ同じタイミングで、八戒と悟空が部屋に飛び込んでくる。
「どうしたんです?向こうまで聞こえて‥‥!?悟浄!?」
「何なんだよ!?悟浄どうしちゃったんだよ?」
三蔵に抱きかかえられるようにして意識を失っている悟浄の姿に、二人は瞠目した。
聞きたいのはこっちの方だ。三蔵自身、今目の前で何が起こったのか理解できていない。
「とにかく、話して下さい。何があったんですか?」
とりあえず悟浄を寝台に寝かせると、八戒は三蔵に詰め寄った。
「俺にも分からんが―――コイツが椅子で転寝をしてたと思ったら、急に魘されて‥‥急いで起こした。そしたら‥‥」

 

『また、夢を見たのか』

ビクッと反応し、悟浄が全ての動きを止めた。不審に思いながらも言葉をかける。

『お前一体、どんな夢を見てるんだ』

紅い瞳が、見開かれる。まるで、何か恐ろしい言葉を聞いたように。

『本当は覚えてるんだろうが。とっとと話せ』

ガタガタと震え始めた悟浄に只ならぬ物を感じて、呼びかけた。

『おい、悟浄?』

その途端、悟浄は―――。

 

 

 

「そう言えば、昨日から少し様子が変でしたね。何と言うか、三蔵の言葉に妙に過剰に反応したりとか‥‥」
「よく思い出せ。昨日、何か変わったことはなかったか?確か三人で蔵の掃除を手伝ったとか言っていたが‥‥そこでは特別何もなかったのか?」
「ええ、特には‥‥あ!」
「何かあるのか」
「一つだけ、気になることといえば。ほんの数分の事なんですが、悟浄が僕達から離れたことがあったんです。蔵から出した荷物を別の部屋に運んでいって‥‥。とにかく、その時は悟浄から目を離してしまいました。僅かな時間でしたし、部屋から出てきた時も特に変わった様子は無かったんで、報告するのを忘れていました、すみません」
「その時、悟浄は一人だったのか?」
「いいえ、案内のお坊さんが一緒でした。確か――」

「栄泉だよ」

それまで黙っていた悟空が、口を開いた。明らかに、怒りを含んだ声だった。
 

 

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