WAKE UP!(4)
八戒と悟空は別室で、運び込んだ荷物と格闘していた。なかなか置き場所が定まらず、ああでもないこうでもないと悩む僧侶につき合わされていたのだ。 ふと、八戒が手を止めた。そういえば、悟浄がいない。別の部屋に荷物を運んでいったきりだ。目を離すなと、あれほど三蔵に言われていたのに。思わず荷物を放り出して部屋を飛び出す。 すると、ちょうど向かいの部屋から、悟浄が出てきたところだった。 「悟浄!」 「おう、そっち済んだか?」 「‥‥悟浄、なんか臭い」 言ったそばから、二人の足はもう部屋へと向かっている。
三蔵が戻って来たのは、三人が夕食を済ませた後だった。夕食まで坊主連中に付き合わされた三蔵に、同情半分、からかい半分の視線が三方から寄せられた。 「何か変わったことは無かったか?」 八戒に問う三蔵の肩を、悟浄はポン、と軽く叩いた。 いつもと同じ軽口。いつもと同じ行動。そして返されるいつもと同じ反応。だが、三蔵の言葉を聞いた悟浄は、ビクッと手を引っ込めた。まるで、叱られた子供のように。 「どうした?」 悟浄自身、何故自分がそんな反応を示したのか、分からない。 「疲れてるんでしょう‥‥今日は早く休みましょう」
(ここは‥‥) 気が付けば、自分は家の前に立っていた。子供の頃、住んでいた家。自然と足がすくむ。 どうして、どうしてこんなことに――俺はただ、母さんに愛してもらいたかっただけなのに。
『お前を愛する奴なんて何処にもいやしねえよ』
「三蔵!?」
いつの間にか、腕の中にいたのは三蔵だった。血まみれの顔に、今まで見たことの無いような冷たい目が光っていた。 『お前なんざ―――――――』
がばっ、と悟浄は跳ね起きた。 (夢?) 荒い呼吸のまま、汗も拭わずにシーツを握り締める。不意に肩に触れられて、心臓が跳ね上がった。人がいたことにも気付かない程、気が動転していたということか。 「悪ぃ、起こしちまったんだ」 珍しく、突っ込んだ事を聞いてくる。いつもなら、人の夢の内容なんかに興味を持つ奴じゃないのに。 本当は、鮮明に覚えている。三蔵の冷たい表情。その口から発せられた言葉も全て。 言うはずが無い、三蔵が、あんなこと。 無理矢理に顔を作って、悟浄は三蔵に笑ってみせた。
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前回の終わり方が、ものすごく気を持たせたものだっただけに、肩透かしでしょうか?
「じわじわと進行する何か」を書きたかったのですが、上手く表現し切れてないですね。