STAND UP!(1)
その洞窟は、入り口からすぐ階段状に下へと降りていく構造になっていた。階段には石が敷き詰められ、明らかに人為的な建造物だということが知れる。 「で?此処には何がある?」 煙を吐き出しながら、問いかける。誰に対しての質問なのかは、明白だった。 「ホントに何にもねぇんだよ!‥‥ただ、‥‥骨だけ、でさ‥‥」 ほどなく、悟空が戻って来た。火を灯し、松明を作る。 「入ってみれば、分かる事だ。行くぞ」
しばらく進むと、何かの部屋の入り口らしき部分に到着した。部屋の入り口といっても扉も付いていない、ただアーチ状にくり抜いたという様だったが。 「此処からか‥‥」 「三蔵、何の札?それ」 「――っ」 「入る必要は無い、か」 「‥‥戻るぞ。もう此処に用は無い」
「何故、黙っていた?」 「あんまり、気持ちのいいもんじゃねぇだろ?」 だから、見せたくなかったんだよ、と笑った。本人は、いつもと同じように笑っているつもりなのだろう。三蔵は沸きあがる感情を必死で抑えた。 「‥‥もう、休め。あそこを出るのに、どうせ妖力も大分使ったんだろうが‥‥。後先考えずに行動するから、そういう目に合うんだ。馬鹿が」 茶化して隠される、悟浄の本心。互いに共に生きると誓ったあの夜から、少しずつではあったが開いて見せてくれるようになった心の扉。だが今は、それはしっかりと閉じられていて中を覗うことすら出来ない。 眉根を寄せる三蔵の気配に気付いたのか、悟浄は声の調子を落とした。 「ワリィな、心配かけちまって。でも俺は、大丈夫だから‥‥」 眼を覆うように手を当ててやれば、さっきとは違う確かな微笑。しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきた。三蔵は、寒くないように毛布を顔近くまで引き上げてやると、その紅い髪に口付けを一つ落とし、立ち上がった。
「悟浄は眠りましたか?」 悟浄の側を離れた三蔵は八戒たちのいる木の下にやってきていた。悟浄の姿は確認できて、会話が彼に届かない距離。八戒らしい、気の遣い方だ。 「悟浄、大丈夫かよ?」 本当なら、すぐにも問い詰めたいところを我慢していたのだろう。三蔵が腰を下ろすのも待たず、それぞれ質問を浴びせ掛けてくる。三蔵は、一度悟浄の方を振り返ると、二人の前に腰掛けた。
「‥‥あの場所には、封印が施されていた。封印ってのは、元来中に封じたものを外に出さないためのもんだ‥‥あそこも例外じゃねぇ。封じるべきものを中に閉じ込めて、封をしてあったわけだ。‥‥そこに悟浄が入って」 「ちょ、ちょっと待って下さい」 「僕には詳しいことはよく分かりませんが‥‥そんなに簡単に入れるものなんですか?弱くなっていたとはいえ、まだ術は生きていたんでしょう?確かにあそこには扉もなかったですが、それで封印が成り立つんですか?」 「別に、物理的に外界と遮断されてる必要はねぇよ。結界さえ張りゃあ、砂漠の真ん中ででも封印はできる。結界の大きさ、形は術者の力次第で自由自在だ。ただし、今回の場合は結界云々よりも、扉が無い、という事の方が重要だな」 「どーいうこと?三蔵」 話を聞いていた二人は、ようやく悟浄が戻ってきたときに疲弊していた理由を理解した。力を使いすぎたのだ。 「けど、三蔵。何でそんな蟻地獄みたいな‥‥面倒臭いことする必要があったんだ?普通に封印したんじゃ駄目だったわけ?あれ?そもそも、何を封印してたんだっけ?」 「忘れたのか?悟浄があそこで見つけたものを」
「――赤ん坊だ」 |
前フリ長すぎですが……。
悟浄さんの優しさが出せれば、と思ってます。