特記事項

*体質により、若干の副作用を伴う事があります。
例:軽度の発疹、記憶障害、不眠、等々

*服用と同時のアルコールの摂取は控えて下さい。効果が極端に早く切れる場合があり、副作用も出やすくなります。

――――――ハッピーメディスン説明書より抜粋
 

 

 

 

 

Happy Medicine その4
 

 

 

 

 

激しく舌を絡めてくる悟浄の巧みな口付けに流されそうになりながら、三蔵もまた自身が主導権を握るため、貪るような舌の動きでそれに応える。
静かな部屋に、唾液の混ざり合う音と時折漏れる甘い吐息が溢れ、三蔵の耳を灼いた。
三蔵の身体を絡め取るように、悟浄が腰に長い足を巻きつけてくる。ぐりぐりと押し付けられる悟浄の中心は既に硬く猛っている。布越しに感じるその熱が、三蔵の身体に火を灯す。
負けじと腰を押し付けると、悟浄は楽しそうにクスクスと笑い、長い口付けで赤く色付いた唇を、ゆっくりと舐めた。

あからさまな誘い。発情期を迎えた獣のような、ギラついた目が三蔵だけを捉えている。

――――――スゲェな。

悟浄が僅かに手を動かす。ほんの少し視線をずらす。そんな些細な仕草の度に、淫靡な香りが撒き散らされるような錯覚を覚えるほど、今の悟浄は官能的だった。
身体の奥底から湧き上がる衝動に突き動かされ、三蔵は悟浄に圧し掛かり赤く熟れた唇を塞いだ――――――。

と、不意に三蔵の体が反転した。

「?」

繋いだ唇はそのままに、三蔵が目を開けるとそこには当然ながら悟浄の顔がある。だがその瞳は野生の笑みを宿したままにしっかりと開かれ、三蔵を見詰めていた。

ぞわり、と三蔵の背を何かが走る。

「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待て!」

悟浄の手が、三蔵の法衣の袷から侵入しようとしたのを制しながら思わず叫ぶ。

「何?今更止めろってのはナシだぜ」

言いながらも休む事無く法衣を乱していく手付きは、乱暴だったが手際のいいもので、流石にエロ河童だけのことはあると思わず感心してしまう。が、悟浄の手が三蔵の素肌を直接弄り始めると、そんな余裕は三蔵から吹き飛んだ。

「止めろ!」
「触れていいって、言ったよな?」
「そういう意味じゃねぇっ!」
「やっぱ想像してた通り、キレーな肌してんのな‥‥」
「聞け、人の話を‥‥‥っ!?」

つ、と素肌に指を這わせられる感触に三蔵は息を呑んだ。

気付けばいつの間にか法衣は見事に肌蹴られ、アンダーはたくし上げられ、素肌を悟浄の目の前に晒している。
咄嗟に殴ろうとした三蔵の腕はあっさり捕まり、頭上で縫いとめられると身動きが取れなくなった。

――――――こんの、馬鹿力が!

目の前にいるのは悟浄であって悟浄ではない事に、ようやく三蔵は気が付いていた。記憶が混乱しているらしく、三蔵と肌を重ねるのが初めてだと思い込んでいる。
確かに、副作用に記憶障害がどうとかいう記述があったような気がしたが。それにしても。

――――――肝心な部分を忘れてんじゃねーぞ、ボケ!!

「ずっと、触れたかった‥‥‥」
「今まで散々触りまくってただろーが!目ぇ覚ませ馬鹿!」
「優しくしてやるよ」

――――――嘘だ!お前のその凶暴な眼!ぜってぇ嘘だーっ!

手を止めない悟浄に空しい抵抗を示しながら、三蔵は、二度と悟浄に怪しい薬は飲ますまいと心に誓ったのだった。
 

 

 

 

――――――彼氏の夜のテクニックに満足できない彼女にもお勧めです。男性が服用すれば、オスの本能をビンビン刺激して、ワイルドでエキサイティングなエクスタシーをお約束いたします。また、女性が服用した場合はより従順かつ大胆に―――――
 

「‥‥‥‥」

かさり、と八戒は説明書を置いた。
薬局の親父がコピーしてくれたものだが、つい、表の説明だけを流し読みしてしまっていた。よく読めば、裏面にもびっしり注意書きやら説明書きやらが記載されている。

(‥‥オスの本能を刺激‥‥‥‥?)

八戒が嫌な予感に顔を曇らせているのに悟空が気付いたようだ。

「どしたの八戒?浮かない顔して」
「いえ、何でも――――」
 

 

 

ぎゃああああああああああああ!
 

 

 

「「‥‥‥‥‥‥」」

突然宿中に響き渡った絶叫に、八戒と悟空は思わず顔を見合わせた。

「‥‥‥‥今の、三蔵?」
「みたい、ですね‥‥」
「妖怪の襲撃とかじゃないよな」
「だったら、あんな声は出さないでしょうねぇ」
「‥‥‥じゃ、放っとこうか」
「‥‥‥放っときましょう」

どういう結論に達したのか珍しく部屋を飛び出さない悟空に、八戒も頷く。正直、怖くて様子を見に行く気にはなれない。今の季節がオフシーズンで、他の宿泊客がいない事に八戒は感謝した。
 

(三蔵‥‥骨は拾って差し上げますからね‥‥)

八戒は心の中で、合掌した。
 

 

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