* 一回一錠を行為の20分ほど前に服用。(注:空腹時の服用はお避け下さい)
* 一回の服用で、効果はおよそ5時間持続。(注:持続時間には個人差があります)

――――――ハッピーメディスン説明書より抜粋
 

 

 

 

 

Happy Medicine その3
 

 

 

 

 

ノックもせず、部屋の扉を開く。
三蔵がその身を部屋に滑り込ませるのと、悟浄が布団に包まって身体を丸めるのとは、ほぼ同時だった。
鍵をかけ、無遠慮にベッドに近付いた三蔵の耳に、くぐもった制止の声。

「来んな‥‥」
当然、それに従う三蔵ではない。

「来んなって!」

悟浄の焦燥を含んだ声すらも、今の三蔵にとっては実に気分のいいものだった。

「気分でも悪いのか?」

分かっているくせに、ワザとそう尋ねると強引に布団を引き剥がしにかかる。

「何でもねぇよっ!ちょっとあっちいけよお前!っつか何乗り上げてんだ!わーっ!ひっぱんな!」
「わめくな。煩ぇ」

ぎゃぁぎゃぁ騒ぐ割には、手に込められる力が弱々しいのを見て取り、三蔵は笑いを堪えながら悟浄を覆う毛布を剥ぎ取るのに成功した。途端に、下からの抵抗もピタリと止む。
諦めたように見上げてくる紅い瞳に、情欲の光が揺れているのがはっきり見て取れた。三蔵が唇を耳朶に近付けると、悟浄の身体がピクリと小さく跳ねる。

「どうしてほしい?」
「あ‥‥」

悟浄が弱い低音を、囁くように流し込めば、抑え切れない熱い吐息が三蔵の首筋を擽る。

「俺が、欲しいんだろ?」
「‥‥‥‥」
「正直に言えば、くれてやる」

三蔵の言葉に、悟浄の中の何かが音を立てて崩れた。頭の中が、熱でドロドロに溶けていって、もう何も考えられない。ただ思うのは、ひとつだけ。

「ん‥‥欲し‥‥い、三蔵が‥‥欲しい‥‥っ」

自らが望んでいた一言を得て、三蔵の口元に笑みが上る。褒美とばかりに耳に歯を立てれば、一段と大きく悟浄の身体が跳ね上がった。

「な‥‥んで?俺、急に‥‥こんな‥‥」
「考えんな」

上擦った声でいつもと違う自分に戸惑う悟浄を宥めるように、三蔵は紅い瞳を隠す瞼に軽く口付ける。悟浄の瞳が、離れる三蔵の唇の動きを追うようにうっすらと開かれた時には、つい今しがたまで露だった困惑が消え、どこか獣じみた光をその瞳に宿していた。

「‥‥さんぞー。触れても、イイ?」

ああ。と頷く暇すらなかった。
急に物凄い力で引き寄せられたと思うと、三蔵の唇は悟浄に塞がれていて。

「ん‥‥んっ」

どちらのものともつかぬ吐息と唾液が、見る間に溢れ出す。
 

いつもより僅かに高い悟浄の体温と、遥かに熱い悟浄の舌に、三蔵は酔いしれた。
 

 

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