* 一回一錠を行為の20分ほど前に服用。(注:空腹時の服用はお避け下さい) ――――――ハッピーメディスン説明書より抜粋
Happy Medicine その3
ノックもせず、部屋の扉を開く。 「来んな‥‥」 「来んなって!」 悟浄の焦燥を含んだ声すらも、今の三蔵にとっては実に気分のいいものだった。 「気分でも悪いのか?」 分かっているくせに、ワザとそう尋ねると強引に布団を引き剥がしにかかる。 「何でもねぇよっ!ちょっとあっちいけよお前!っつか何乗り上げてんだ!わーっ!ひっぱんな!」 ぎゃぁぎゃぁ騒ぐ割には、手に込められる力が弱々しいのを見て取り、三蔵は笑いを堪えながら悟浄を覆う毛布を剥ぎ取るのに成功した。途端に、下からの抵抗もピタリと止む。 「どうしてほしい?」 悟浄が弱い低音を、囁くように流し込めば、抑え切れない熱い吐息が三蔵の首筋を擽る。 「俺が、欲しいんだろ?」 三蔵の言葉に、悟浄の中の何かが音を立てて崩れた。頭の中が、熱でドロドロに溶けていって、もう何も考えられない。ただ思うのは、ひとつだけ。 「ん‥‥欲し‥‥い、三蔵が‥‥欲しい‥‥っ」 自らが望んでいた一言を得て、三蔵の口元に笑みが上る。褒美とばかりに耳に歯を立てれば、一段と大きく悟浄の身体が跳ね上がった。 「な‥‥んで?俺、急に‥‥こんな‥‥」 上擦った声でいつもと違う自分に戸惑う悟浄を宥めるように、三蔵は紅い瞳を隠す瞼に軽く口付ける。悟浄の瞳が、離れる三蔵の唇の動きを追うようにうっすらと開かれた時には、つい今しがたまで露だった困惑が消え、どこか獣じみた光をその瞳に宿していた。 「‥‥さんぞー。触れても、イイ?」 ああ。と頷く暇すらなかった。 「ん‥‥んっ」 どちらのものともつかぬ吐息と唾液が、見る間に溢れ出す。 いつもより僅かに高い悟浄の体温と、遥かに熱い悟浄の舌に、三蔵は酔いしれた。
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