ハッピーメディスンはその色によって効能が違います。あなたのお好みとご気分のままに、恋人を乱れさせてみませんか。勿論、男女問わずにご使用になれます。
さあ、今宵はどの色に?

黒:『ナイト・スレイブ―――――羞恥の枷を外し、どんな淫らな体位もポーズもお望み次第。あなたを得るためなら足すら舐める、夜の奴隷はいかが?』

緑:『ジャングル・クルーズ―――――まるで大自然のど真ん中で交わるような開放感。本能のままにあなたを求める野性的な恋人の姿を満喫できます。持続性も抜群!』

青:『――――――』

黄、赤、etc‥‥

――――――ハッピーメディスン説明書より抜粋
 

 

 

 

 

Happy Medicine その2
 

 

 

 

 

ちなみに、八戒が手に入れたのは緑色の錠剤である。

何やかやと思案を巡らせた挙句、その薬を仕込んだのは夕食後のコーヒー。食事にはビールと決めている悟浄に飲ませるために、わざわざデザートまで用意したのだ。
砕いて奴の食事に混ぜればいいじゃねぇか。と三蔵は主張したが、八戒に却下された。

「悟空が食べる可能性がありますから。あんな得体の知れない薬、悟空には飲ませられませんよ」

(‥‥お前は本当にあの男の親友なのか‥‥)

自分の事は棚に上げ、三蔵はほんの少し悟浄に同情した。
 

 

 

 

三蔵が、ちら、と自分を盗み見る視線に気付いたのか、悟浄が訝しげな視線を寄越してくる。

「んだよ?」
「いや」

今のところ、特別、悟浄に変わった様子はない。テーブル下で、八戒が足を小突いてくるのを無視し、三蔵はぬるくなったコーヒーを飲み干した。
 

「どうしました、悟浄。何だか顔が赤いですよ?」

ほどなくして八戒の声に三蔵が顔を上げれば、確かに悟浄の顔がうっすらと赤らんでいるのが分かる。

「んー。や、別に」

どこか落ち着きの無い所作で煙草を弄んでいる悟浄と、三蔵の視線がふとかち合った。
瞬間、まるで沸騰したかのように悟浄の顔が真っ赤に染まる。

「お、俺、先に寝るわ!」

悟浄は大きな音を立てて席を立つと、バタバタと慌しく食堂を出て行く。その後姿を見送って、悟空が呆気にとられたような声を出した。

「‥‥ナニ、あれ。‥‥‥‥って、三蔵も行くわけ?」

続いて席を立った三蔵を、悟空の声が追う。おやすみなさい、と言葉をかける八戒の含んだ笑みが妙に怖い。
食堂の扉がパタリと閉じられたのとほぼ同時に、悟空はやれやれという風にため息をついた。

「‥‥‥で?今度は何、企んでんの?」
「『今度は』って何ですか、人聞きの悪い」

悟空の物言いに、八戒は苦笑する。

「急に俺たちの部屋を離れたとこに変更したから、何かあるとは思ったんだよなー。‥‥‥で、何したの」

そうですねぇ、と八戒は曖昧に微笑んだ。

「実験、ですかね」
「何の?」
「安全性は確かめといた方が良いと思いまして‥‥将来使う可能性がないとも言いきれませんし。ま、悟浄は頑丈だから大丈夫でしょ」
「???」

悟空にはさっぱり理解できない様子だが、勿論詳しく説明する気など八戒にはない。
悟浄が聞けば、『告白すらしてねぇクセに、俺を実験台にするんじゃねーよっ!』と怒るだろうが、本当は実験云々よりもただ単に面白そうだという理由の方が大きいのだ。
もしかしたら、明日の朝、三蔵が物凄く幸せそうな顔をして現れるかもしれない。
それは多少怖いような気もするが、一度くらいはそんな三蔵の顔を拝むのも楽しいではないか。しばらくは、からかうネタに困るまい。

「さあ、いいからどんどん食べてください。まだ沢山ありますからね」

どん、とテーブルの上に山盛りの桃まんを置くと、悟空の興味はそちらに移ったようだ。口いっぱいに桃まんをほおばり、幸せに浸る悟空の表情を見て、八戒もまた幸せな気持ちになった。

(さて、あの二人は幸せになれますかね?)

明日が楽しみだ、と八戒はひとり微笑んだ。
 

 

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