Give and Take(5)
それから悟浄は狂ったように三蔵を求め、ついには意識を飛ばした。 三蔵は、悟浄の寝顔を黙って見下ろした。 自分が与えた仕打ちの表れを垣間見て、三蔵の心臓が締め付けられる。 厳しい状況を口では説きながら、三蔵の心にはどこか欺瞞があった。きっと悟浄は自分とのことだけは思い出したいと願う筈だと。 しかし、現実は違っていた。 三蔵は動揺し、全身が粟立った。膨らむ焦燥のままに、悟浄を追い詰めるように抱いた。少し痩せて骨ばった悟浄の身体が、三蔵の劣情を誘う。悟浄が快楽の涙を滲ませる度、唇でそれを拭った。 だが。 悟浄は頭痛を訴えなかった。 ―――ただの一度も。
『術に反発すれば頭痛が起こる』と判じたのは、自らの経験からだ。 頭痛が起こらない。 その事実が示すのは―――悟浄が三蔵と共に在った頃の記憶を取り戻すことを望んでいないという、現実。愕然、という言葉では表せないほどの衝撃を三蔵が憶えていたということを、悟浄は気付いていただろうか。 悟浄との会話の中で、術に反発する頭痛が始まるのを待ち、術を破るまで継続させる。それが三蔵が八戒たちに示した計画だった。 愚かにも、三蔵は失念していた。 ―――最高僧である三蔵の立場と禁忌の子供である自分の出生の間で、悟浄がどれほど苦しんだか。
焦りが、胸を灼く。だが、気付いた時には既に手遅れだった。
軽い寝息を立てる悟浄の顔は穏やかで、こうしていると自分たちに降りかかっている出来事が全て夢の中のように思えてくる。 もうじき始まる悪夢の前に。 「‥‥‥ん‥‥‥」 三蔵がただじっと見守る視線の先で、悟浄が寝返りをひとつうつ。少し寒いのか、シーツを引き上げる仕草に手を貸してやる。温もりを求めてごそごそと動いた足が三蔵のそれに当たると、悟浄の動きがぴたりと止まった。 三蔵は、動かない。ただじっと、悟浄を見詰めている。 「あ‥‥?」 三蔵はただ黙って悟浄を見ていた。 忙しなく辺りの様子を見回していた悟浄だったが、自分と、同衾の相手が全裸である事に気付き、納得したように頷く。一言も口を利かない三蔵に焦れたのか、悟浄は、照れたような、それでいて全く心の篭ってない営業スマイルを浮かべ、僅かに首を傾げて見せた。 何が起こるのかは充分過ぎる程に分かっていたつもりだった。それなのに。 「えー、っと‥‥。俺、ヤる前にちゃんと金貰ったかな、お客さん?」 氷の刃で胸を貫かれる方が、まだマシだった。
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本当の悪夢は、これから。
というわけで、悟浄さんはすっかりお忘れになりました。
これから先はあまり愉快な展開ではありません…。先に謝っておきます…。