Give and Take(4)
まず驚いたのは、自分の方が下だったということ。 そして。 ――――自分が男相手にこんなに乱れているということ。
「ちょ‥待て、って、もう‥‥」 呼吸か喘ぎか判別不能な荒い息の下、許して欲しいと悟浄が三蔵に懇願する。 「信じた、か?」 コクコクと悟浄が必死に頷く。先程、つい首を横に振ってしまい、とんでもない目に合わされたためだ。だが、三蔵は少しも手を緩めない。ベッドで相手に翻弄された経験など皆無に等しい悟浄にとって、こんなロクに遊びも経験したことがないような坊主に良いようにされている状況は、到底信じられないものだった。 「あ‥っ、あっ、あ、あ、あああ」 ガクガクと揺さぶられる度に目の前に火花が散る。 「無駄だ‥‥、知ってんだよ、お前の弱ぇトコなんざ、全部。例えば――」 実を言えば、悟浄はまだ三蔵との関係に関しては半信半疑だった。 「悟浄‥‥、まだ分からねぇのか?」 見透かしたようなタイミングで深く抉られ、思考も何もかも、どこかへ飛んでいってしまう。 「俺を刻み込め、悟浄。‥‥心にも、身体にも」 白濁する意識の中、遠く聞こえた三蔵の声。無性に悲しい響きに思えて、それ以上聞くのが辛くなる。
「お前って、結構ガキだったんだなー」 何度か欲望を吐き出した、心地良い疲労感に包まれた中でのピロートーク、の筈が。 「好きなコほど苛めちゃうって、そりゃガキのする事だろ?」 今の悟浄は、三蔵たちと出会って間もない頃の記憶しか持っていない。
今になって思えば。 「煩ェな。そん時は別にそういう気じゃなかったんだから当て嵌まらねぇだろ」 だがやはり素直に認められなくて、ついつい普段通りに悪態をつき、三蔵は内心焦ってしまった。だが、悟浄は三蔵の言葉に、違う意味で引っかかったらしい。 「じゃ、今は好きってワケね」 これから起こる事態から目を逸らすかのような、浮ついた会話。 「‥‥‥‥なぁ」 先程とはうって変わった、伺うような声音。 「告白したの、どっち?」 誤魔化す気にはなれず、正直に告げた三蔵に、何故だか悟浄はほっとしたような困ったような、微妙な表情をした。やや俯き加減に、枕を抱きしめる。 「俺、すぐにOKした?」 別に、と短く答え、悟浄は枕に突っ伏すように顔を埋めた。 「こうして今のお前が俺を受け入れたのは、どうせすぐに忘れることが判っているからか」 悟浄は、困ったような表情で三蔵を見ている。答えに窮しているわけではなく、あまりにも当然のことを質されて、頷くのに抵抗があるといった様子だ。
悟浄が自らの気持ちを頑なに告げようとしなかった理由。三蔵の立場と、自らの出生。 例えば―――魂を近くする者たちとの出会い。 「‥‥ワリ。刹那的ってのかな、こういうの」 一夜の夢だから、と僅かに伏せられた悟浄の瞳が哀しい。 「お前とこーなってんだから、悪くねぇ三年だったんだろな、きっと。‥‥‥‥けど、よ」 悟浄は、その問いには答えなかった。ただ、口元を僅かに歪めて、薄く笑みを形作っただけだった。 「なぁ。もう一回―――。シよ?」 悟浄が三蔵の首に両腕を回して、その身体を引き寄せてくる。 そうするしか、できなかった。
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刹那的思考の悟浄さん。三蔵様の想いは届くのか…。
二人の想いが通じるまでの設定は拙作「そして全ては始まった」を踏襲しております。
…今となっては拙すぎて削除してしまいたいお話ですけどね(涙)