Don’t cry(2)
「それで、何か体に異常はありますか?」 宿についてから、合流した八戒に事情を話した三蔵は、そのまま手当てを受けていた。子犬が悟浄の腕から飛び出す際、三蔵の右手を引っかいていったのだ。 「傷自体は深いものではありませんが‥‥塞がりませんね」 「刺客だと思います?」 どこか考え込むような三蔵の様子に、八戒は眉を顰めた。 「気になることが、あるんですね?」 気になる、といえるのかどうか判らない。ただ、あの妖怪が見せた悟浄に対する態度と、悟空と自分へのそれは全く違っていた。それが、妙に引っかかる。 (嫌な予感がしやがる―――) 三蔵は、自分の手に残された傷跡を、じっと見つめた。
その日の深夜、悟浄の眠る部屋の窓に、一つの影が現れた。音も無く、窓が開く。 「うわ〜、本当に来たよ。マジ、妖怪だったんだ〜」 部屋の隅から、気配を殺していた悟空と八戒が立ち上がる。 「どこに行くつもりだ?」 反対側から、三蔵の声。ベッドでは、既に起き上がった悟浄が、床を見下ろしていた。 そこにいるのは、確かに、昼間の子犬。 「俺に何か用でもあんのかよ。ええ?ワンちゃん妖怪さんよ」 周りを囲まれてた子犬は、入ってきた窓の方向へ逃げようと駆け出した。 「‥‥無駄だ」 三蔵は、テーブルの上にあった悟浄のライターを手に取り、口の中で短く何かを唱えると、子犬に向かって軽く放った。大した勢いもなく放られたはずのそのライターが、子犬の体に命中する直前、耳を塞ぎたくなる様な絶叫と共に白煙が子犬の全身から立ちのぼる。 「わお。三蔵様って、多芸ねv」 四人がくだらない会話を交わしている間にも、妖怪は何とかその束縛から逃れようとあがき、もがいている。 「諦めろ。俺の捕縛術からは逃れられん」 三蔵は、懐から銃を取り出し、妖怪に向かって狙いを定めた。 「―――いいのかな?俺をここで殺しちまって。後で後悔することになるのはそっちだぜ?」 「「「三蔵!?」」」 慌てて三人が三蔵を見やると、確かに大量に汗をかき、呼吸が荒くなっている。明らかに、尋常な様子ではない。 「毒‥‥ですね。昼間三蔵を引っかいた時に、仕掛けたんですね?」 な、と悟浄と悟空は目を見開く。二人は全く気付いていなかったのだ。勿論、三蔵が気付かせないように振舞ったせいでもあるのだが。 「お前に使った毒は俺のオリジナルだぜ?そんじょそこらの解毒剤なんざ役にたちゃしねぇよ。消せるのは、俺だけだ」 得意げな妖怪の口調が、その場の全員の神経を逆撫でする。 「その口ぶりだと、俺の命が目的ではないようだな‥‥。何が、望みだ?経文か?」 そして妖怪は、勝ち誇った声で三蔵に告げた。 「取りあえず、コレ外して貰おうかな。――――それから、お前」 首を回し、声をかける先にいたのは、悟浄。 「一緒に、来て貰おうか」 にやりと妖怪は、笑った。
「いい気になってんじゃねぇぞ、誰が‥‥‥」 三蔵は銃の引き金を引こうとした。が、既に指先に力が入らない。視界が霞み、立っていることすら困難だ。 「三蔵‥‥奴の拘束、解けよ」 荒い息をつきながらも、三蔵は悟浄を睨み付ける。その視線を、悟浄は穏やかに受け止めた。 「いいから。俺、ちょっと行って来るわ」 八戒と悟空の焦った声が響く。 「このまんまじゃ、埒があかねぇ。―――俺が一緒に行けば、三蔵は助けてくれるんだな?」 しかし、当の三蔵本人は、もう既に術を保っていられない状態だった。三蔵の足が崩れるのと同時に、妖怪を拘束していた何かが消える。妖怪はこきこきと肩を捻った。 「あー、やれやれ。怖いお坊さんだこと。心配しなくてもいいよ。どうせ二人一緒に連れて行くから。そっちの君たち二人はお留守番ね。―――もっとも、もう帰ってこないと思うけど」 突然妖怪から発せられた閃光に、八戒と悟空は思わず目を閉じる。 二人が再び目を開けた時には、妖怪も、悟浄と三蔵の姿も、掻き消すように消えていた。
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ベタな展開に言葉も無いです……。
とりあえず、次回悟浄さん大ピンチ(?)……やっぱり「?」だったり。
頑張って更新する意味があるんでしょうか、この話は(恥)。