Don't cry
「何。どうかした?悟浄?」 悟空の声で、我に返る。 「いんや、別にぃ」 軽く返しながらも、悟浄は神経を別なところに集中させていた。 「それで、聞いてるのかお前は」 三蔵の言葉に、悟浄はビールを軽く持ち上げて応える。今は、この街に出現する妖怪の事を話していたのだ。街のいたるところ―――この店も例外ではないが―――に貼られた魔除けの護符。さっき店の亭主に聞いたところでは、時々街の裏手にそびえる山から妖怪が下りてきては、好き放題をやらかすらしい。最近は人が食われる事もあるのだ、と、亭主は嘆いていた。 『けど、自分たちには妖怪を倒す力もないし、この街を出て行くアテもないんだよ』 何か言いたげに寄せられる視線を、三蔵は黙殺した。 「どうします?」 貼られている護符には大した力は無い。現に妖怪である三人が店に入っても平気なのだ。妖怪に襲われれば、為すすべも無いだろう。 「ウゼェな‥‥」 三蔵は、眉間に皺を寄せた。
「あれ、お前どうしたのよ?」 食事を終えた一行が、店を出てふと見れば、街角の薄汚いゴミの山に隠れた、白い動くもの。悟浄が何かと思って近付くと、一匹の子犬がうずくまって震えている。どうやら足を怪我して動けないらしい。 「あーよしよし。ちょっと待ってな、手当てしてやっから」 八戒がいれば、気で直してくれるのだろうが。ちょうど八戒は、所用の為に一足早く店を出ていた。この先の宿で落ち合う予定になっている。
「なー、あいつ。まだくっついてくるよ」 ひょこひょことおぼつかない足取りながら、白い子犬は一行の、いや悟浄の後を必死についてくる。やれやれといった体で、悟浄は子犬を抱き上げた。子犬は猛烈な勢いで尻尾を振りながら、べろべろと悟浄の顔を舐めてくる。 「こら!くすぐったいって!」 悟浄が子犬を悟空に手渡そうとした時、ウウウ、と子犬が唸り声を上げた。 「あれ?どーしたんだろ。俺のこと、嫌いなのかなあ」 例のごとく、ぎゃあぎゃあと食事後の腹ごなしを二人が始めようとした時。 「悟浄」 馬鹿コンビの言い争いを止めたのは、三蔵の、低い声。 「その犬、捨てろ」 声音に含まれる真剣さに、どうやらただ事ではないらしい、と悟空と悟浄が顔を見合わせる。業を煮やしたのか三蔵は、子犬を悟浄から取り上げようと手を伸ばした。 「っ!」 三蔵の手が届くかどうか、というところで、今までおとなしく抱かれていたはずの子犬が急に暴れだし、思わず悟浄が緩めた腕の中から飛び出した。一目散に駆けていくその姿に、怪我をしているはずの足を庇う様子は見られない。 「な‥‥」 呆然としている悟浄に、三蔵は告げる。 「‥‥あれは、妖怪だ」 悟空が代わりに返事をしたが、勿論、悟浄も同じ気持ちだった。 「妖気を封じていたらしいが‥‥さっき悟空が触れようとした時、僅かに漏れた。お前らは自分たちの妖気と干渉しあって、気付かなかったんだろ」 会話を交わしながら三蔵は、右手をそっと後ろに隠した。 |
まずは、プロローグ編……。
次は、お約束の展開ですけど、多分///。
悩んだワリには、普通のタイトル付けました。適当に。