在るべき処へ(4)
悟浄が宿に戻った時には、既に夜中だった。もう寝てるかな、と思ったが三蔵はしっかり起きていた。昼間の不機嫌に拍車がかかっている。 「いちいち待ち構えて怒んなよ。ちょーっと、遊んできただけじゃない」 「へーへー、分かってますって。ま、起きてたんなら丁度イイや。お説教はいいから、はい、コレ」 悟浄は持っていた紙袋を三蔵に差し出した。受け取った三蔵が開けてみると、服が入っている。 「どうしたんだ、こんなもの」 悟浄の言う「いろいろ」を問い詰めたいという気が起きないでもなかったが、無理矢理バスルームに押し込められ、機会を失った。
バスルームからでてきた三蔵を、ベッドに腰掛けた悟浄は嬉しそうに迎えた。 「おおっ!やっぱ似合うじゃん。さすが俺様。センス抜群ね」 「本当はオーダーにしたかったんだけど、流石に時間がねーもんな。けど、サイズは外してねーだろ?」 確かにそれは三蔵にぴったりだった。動きやすさ、着心地共に申し分ない。
――――あれから、悟浄はあの男に案内させて、この街一番の高級品を扱う洋服店を訪ねていた。無論、普通の店が開いているような時間では無かったが、男の顔で、無理矢理開けさせた。 選んだのは、黒皮の細身のパンツと、薄紫のシャツ。一見すると白いように見えるが、光線の具合で薄く色を放つ。彼の瞳の色を髣髴とさせる上品な色合いのそれは、とても彼に似合うだろうと思って、決めた。 (ま、大体何でも似合う奴だけどさv)
「‥‥‥‥」 明らかに、その後の行為を前提とした口付け。 吐息ごと舌を絡ませたまま、ベッドに倒れこむ。長い口付けからようやく解放されると、荒い息の中、悟浄が問い掛けた。 「あ‥‥どした?何で急に‥‥欲情してんの?」 悟浄は三蔵のシャツのボタンに手を掛けた。 一つ外しては、その場所に唇を寄せ、舐めてはきつく吸い上げる。三蔵の体の中心に沿って、まるでボタンのように、赤い跡が残っていく。 「どうした‥‥今日はやけにノってるじゃねぇか」 そう答えながらも、悟浄は自分でも不思議なほどの気分の高揚を感じていた。 (性にあってんのかねぇ) 「おい」 「痛てて、何だよ、もう」 声に怒気が篭っている。どうやら、他の事を考えていたのがバレたらしい。悟浄は悪びれることなく、挑戦的な笑みを浮かべた。 「今日の俺、本気にさせて後悔しても知らねぇぜ?」 悟浄の挑戦を真っ向から受け止めるように、三蔵もまた口元に笑みをのぼらせた。
ふとした気配に、悟浄は目を覚ました。隣には、自分を抱えるようにして眠っている三蔵がいる。起こさないように腕を外し、慎重に体を離すと、手早く衣服を身に着けた。音を立てないように、部屋を出る。 宿から少し離れると、先程店で最後に対戦した男が、目の前に立ち塞がった。 「お兄さん、一人?さっきは賢い選択したと思ったけど‥‥リベンジなんて、結構根性あるじゃん。ま、ちょっと無謀だケドさ。今度は俺、遠慮しねぇぜ?」 少し体を斜めにして、戦闘体制に入ろうとする悟浄を、その男は慌てて止めた。 「ち、違う!アンタとやりあう気は、もう無ぇ!ボスがお呼びなんだ、一緒に来てくれ!」 手下をやられた事が腹に据えかねて、ボス自ら仕返ししようとでもいうのだろうか。三蔵の、『妙なトラブルに巻き込むな』という科白がリフレインする。ここは、自分だけでカタをつけるしかないだろう。 悟浄はやれやれと、ため息をついた。
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う〜ん、三蔵様がぴりっとしませんでした。せっかく皆様に楽しみにしていただいたのに……。
それに、また暗転させてしまいましたし。自分でも、根性無いなあと思います。