在るべき処へ(2)
対する男たちは全部で五人。 ―――本当は、遠回しに誘ってんじゃねぇのか?
だが、悟浄が三人目を破った時、男たちの表情に変化が現れた。 ―――おかしい、コイツがそんなに強いはずは無ぇ
現に、そんなに強い札を引き当てているわけではないのだ。ただ、自分たちより少し強い手札をたまたま手にしているだけで。 だが、事実、いつの間にか勝っているのは悟浄だった。男たちの内心の動揺に気付いているのかいないのか、相変わらず自分のツキを嬉しげに喜んでいる。 そして、また一人―――四人目が負けた時点で、その場の空気は一変した。 五人いれば、多少相手の腕が立ったところで全員負けることなどありえない、そう思っていた男たちは焦った。 このまま勝負を続けて負けてしまえば、自分たちはいい笑い者だ。 ―――仕方ねぇ、やるか。 最後に残された男はゆっくりと席についた。 イカサマだろうが何だろうが、最後に金を手にしたものが勝者なのだ。 カードを配り終え、それぞれ自分の手札を確認する。ふっ、と眉を寄せた悟浄の表情に、男は内心ほくそえんだ。すると、何を思ったのか、悟浄はそのカードを一度重ねると、トントン、とそろえ、再び広げた。何度か、閉じる、開くを繰り返す。 「‥‥?」 何をしてるんだ?と尋ねるより早く、悟浄が口を開いた。 「あ、俺カードの交換はしなくていいや、それと‥‥レイズ」 (掛け金を上げるだと‥‥?カードも交換せずに、一体何を考えてるんだ?) 「あ、ちょっと待って」 「これも、アップして」
(どういうことだ?ちゃんと仕掛けたんじゃないのか?) ざわめく店内、テーブルについた男の顔は蒼白だった。悟浄は煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出した。余裕の、仕草。 (ハッタリだ!ハッタリに決まってる!) 「イカサマってさあ」 今まで煙草を吸っていた悟浄が、突然口を開いた。 「バレないよーにやるもんだよねぇ?」
ざわめいていた店内が、静まり返る。
悟浄は煙草を指に取り、そのまま片肘を立てて頬杖をついた。流れるような動作に、つい、それを目で追ってしまう。一つ一つの動きから、目が離せない。目を逸らしたいはずなのに。 「な、何が言いたい?俺たちが、イ‥カサマを、やっている、とでも‥‥?」 端から見れば、不自然極まりない口調だったが、誰もそれを咎めるものはいなかった。 「いんや?そんなこと言ってませんって‥‥そだね、言い方変えようか」 「イカサマってさ、相手にバレなきゃイカサマじゃねーよなぁ?」
「な‥‥?」 確かにイカサマというものは、具体的な証拠があって初めて糾弾できるシロモノだ。相手がイカサマを仕掛けられたという事実に気付かなければ、そのイカサマは存在しなかったことになる。 「何か仕掛けやがったな‥‥てめぇ」 軽い口調で返される。だが、何か仕掛けたと言わんばかりの先程の科白。それを見抜いてみろと挑発しているのか? ―――ナメやがって そう言えば、さっきカードを配った時、不自然に揃えなおしていた‥‥あの時!だが、一体何をされたのか分からない以上、追求することは出来ない。それでも、この男の自信たっぷりな態度からすると、何か細工をされたのには違いない。 何とかソレを見抜いてやろうと、顔を上げて目の前の紅い髪の男を見た。 そして――――今度こそ、本当に動けなくなった。 その、射抜くような眼差しに。
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チンピラの皆さんに、あーんなことや、こーんなことをされる悟浄さんを想像していた
そこのお嬢さん!!ごめんなさい、ご期待に添えなくて……。