在るべき処へ
そこは、とある街の賭博場。 「今日はついてねーぜ、ったくよぉ」 咄嗟に返される軽口に、周囲がどっと沸く。男は忌々しげに舌打ちをした。 「今日はそもそも、あの旅の坊主に会った時から調子が狂っちまったんだよ。あの野郎、今度会ったらただじゃおかねえ」 下卑た笑い声を立てる男たちの頭上から、突然声が降って来た。 「楽しそうな話してるじゃない。俺も混ぜてよ?」 男たちが一斉に見上げると――――そこには、紅い髪の男が立っていた。
「なんだ、てめぇは」 つれないねぇ、お兄さんたち。と、その男は別に気にした風でもなく、それでもその場を去る事もせず、言葉を続けた。 「じゃあこうしようか。俺と一人ずつ勝負して、俺が全員に勝ったら俺のお願いを聞いて貰う。そっちの誰か一人でも勝ったら、俺が言うこと聞くってのは、どう?勿論、掛け金とは別に」 男たちは顔を見合わせ、それからこの突然目の前に現れた男を値踏みするように見上げた。 ――――悪くねぇ。 「おい、兄ちゃん―――言うこと聞くって、何でもか?」 一人の男が、今にも舌なめずりしそうな風体で聞く。 「勿論、何でも。俺が負ければね」
それは、この街に到着したばかりの、昼間のこと。 三蔵は、帰ってきた。 法衣が泥で汚れていた。何があったかは、誰が聞いても教えてはくれなかった。ただ、最高に不機嫌だっただけだ。 ―――成る程、こいつらに絡まれたわけね。 大体の予想はついていた。あれだけ目立つ三蔵のことだ、そういう対象としてこの男たちに声を掛けられたのだろう。おまけに法衣まで汚されたところをみると、かなりご立腹状態だったのも頷ける。 こいつ等よく生きてたよな、と悟浄はぼんやりと感心していた。 「おい、兄ちゃん。何ボーッとしてるんだ?やっぱり自信がないってんなら、もうギブしたっていいんだぜ?そっちだって、お楽しみは早い方がいいだろ?」 そう言うとまた周りから下品な笑い声があがる。 楽勝だ、と男たちは思った。
|
プロローグ編はやはり短くなってしまいました……///
いえ、本編も決して長くはないんですけど……(当社比)