Smile(後編)
「ふぃー。ただ今帰りましたよ〜、って何、どしたの皆?」 確かに自分が出かけるときには、出発の準備をしていたはずだが。どう見ても、三人とも旅支度が済んだようには見えない。菓子をボリボリと齧っていた悟空が悟浄に告げる。 「出発は昼過ぎに変更だってさ」 「‥‥僕が心配してるのは悟浄なんですけど。ま、程々に。さて、悟空。僕たちは行きましょうか」 一体何が起こっているのか、悟浄にはさっぱりだった。 「どこへ行く?」 八戒と悟空に続き、部屋を出て行こうとした悟浄を、三蔵は呼び止めた。 「いや、あの‥‥出発、延びたんだろ?俺も、出かけようかな〜なんて」 新聞を乱暴に放り投げ、眼鏡を外すと三蔵は悟浄に近付いた。左腕を取り、腕に貼られたタトゥーのシールを引き剥がす。 「ちょっ‥‥!」 「コレは何だ」 昨日、いつもと変わらぬ様子で帰ってきた悟浄だったが、腕に、派手な刺青のシールを貼っていた。普段通りのふざけた笑いを浮かべ、三蔵に見せながら言ったものだった。 『似合う?カッコいいでしょ、これ』 返事の代わりに、ハリセンを喰らわしてやったのだが。 「お、おい、さんぞ‥‥」
「‥‥‥悪ぃな」 悟浄は三蔵の顔を両手で包み込み、額をつき合わせるように覗き込んだ。三蔵を労わるような、穏やかな笑みを浮かべて。 「嘘、吐かせちゃってさ」 そう、嘘ではない。例えそれが、真実ではないにしても。 「分ってる、けど――お前にも迷惑かけたんじゃねぇ?」 ゴメンな。そう言う悟浄に三蔵は眩暈さえ覚えた。こいつはこういうときだけ妙に察しがいい。あの男が本当は何をしに来たのか。少なくとも自分に謝るためではないという事が、悟浄には分かっているのだ。 「そんな、皺寄せんな。いい男が台無しだぜ?」 「てめぇが――」 三蔵は、悟浄を引き寄せて口付けた。もうそれ以上、笑わずに済むように。
あの親に育てられた少年は、成長しても、あのまま悟浄を好きだと思うのだろうか。それとも、今度会った時には、親と同じく悟浄に銃を向けるのだろうか。 「猫なんざ、どこにでもいるもんだ」 小さな傷口から、じわじわと悟浄を侵食する。放っておいても、自分で直してしまうだろうが、何故だかそうはさせたくなかった。 「俺が、消毒してやる」 すぐにその体に覆い被さり、もう一度熱を分け合う行為を開始した。 だから、俺は何も見なかった。 悟浄が泣き出しそうに、それでいて本当に嬉しそうに笑っていたなんて事も。
「Smile」完 |
「三浄モード」と連呼していた割には、相変わらずのこのヌルさ(///)。
でも、マナミ様が喜んでくださったから、よし。という事で!では!(逃)