Poison(悟浄Ver.)

「う〜〜。なぁ〜〜さんぞ〜〜煙草くれよ〜」

さっきから俺は、木にもたれて座る三蔵の足元をゴロゴロ転がっていた。
「煩せぇ、てめぇあっち行け」
これ見よがしに、煙を吐き出す。‥‥‥畜生、冷てぇな。
「前に、マルボロなんざ煙草じゃねぇ、とかほざいてたのはどこのどいつだ?」
‥‥こいつ、根に持ってやがる‥‥男のクセに細かいこと覚えてんじゃねーよ。
「大体貴様は吸いすぎだ。無計画に吸うのが悪い。自業自得だな」
「だあってさ〜。まさか、次の街までこんなにかかるとは思ってなかったんだもんよ〜。な、ちょーだい三蔵様、一本だけでいいからさぁ」

煙草が切れてから丸1日、俺はもう限界にきていた。この森を抜ければ街があるらしいが、日が落ちてからの森抜けは危険すぎる。俺は泣く泣く、野宿に同意した。
「絶対にやらねぇ。俺もコレが最後の1箱なんでな」
「このどケチ坊主!俺がニコチン切れで死んだら、ぜってー化けて出てやるからな!覚えてろよクソハゲ坊主!」
「何なら、俺がニコチン切れの無い世界へ送ってやろうか?」
チャキ、と銃口を向けられ、俺は早々と降参した。

「あ〜。もう駄目、俺マジ死ぬ‥‥」
仰向けに転がって、目を瞑る。寝ちまえば、何とかなるかな‥‥八戒たちんトコ、戻るか。
そう、思った瞬間。
唇に柔らかいものが触れた。

「!っ??ん――んっ!」

驚いて目を開ければ、三蔵のどアップ。驚きながらも舌で唇をなぞられれば口を開いてしまうのは習性か悲しい男の性か。途端に息を吹き込まれる。むせ返るようなマルボロの匂い。くらり、と意識が揺らぐ。追ってすぐに入ってきた三蔵の舌を吸い上げ、存分に味わう。幾分薄まったマルボロと逆に強くなった三蔵の、二つの匂いが混ざり合って俺の欲望を刺激する。

ぞわり、と全身が粟立つ。

――――どんなキツイ煙草でも
――――どんな上物のドラッグでも

決して味わえない、この恍惚とした酩酊感。

唇が離れた瞬間、また欲しくなる。恐ろしいほどの習慣性。
 

 

 

ヤバイ。
 

 

 

「‥‥とりあえず、今はコレで我慢しとけ」
与えられた代用品は、それこそが最上級品で。もう、他のモノでは満足できない。

俺は笑っていた。
三蔵は何事も無かったように、前を向いて煙草をふかしている。
「他の煙草吸えなくなったら、どーしてくれんの、三蔵様?」
クックッと肩を震わせて笑う俺に、じろりと冷たい一瞥をくれる。
 

 

「心配いらねぇよ」
 

 

紫煙が吐き出される。その姿に無性に喉が渇く。――――欲しい。もっと。
 

 

 

「責任は、取ってやるさ」

「Poison(悟浄Ver.)」完

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