Don’t cry(5)
八戒と悟空が、その妖怪のアジトを突き止めたとき、三蔵と悟浄が妖怪とともに姿を消してからかなりの時間が経過していた。 二人とも、動かない。 八戒と悟空は、その場で足を竦ませた。 その横を、すり抜けるように悟空が前へ出る。 「ごく‥」 悟空の叫びが、部屋中に響き渡った。 「起きろよ!二人とも!何、いつまでも寝てんだよ!西へ行くんだろ!?旅を続けるんだろ!?」 それは、悟空の心からの叫び。そばで聞いていた八戒の胸にも、容赦なく突き刺さる。 「起きろよおぉぉぉぉぉっ!!!!」 こんな悲しい叫びは、聞いた事が無い。八戒は、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られた。
絶望が支配する空気を破ったのは、小さな、呟きだった。 「‥‥っるせーんだよ、馬鹿猿‥‥騒ぐな、頭に響く‥‥」 あの薬を飲んでしばらくしたら、三蔵の呼吸が落ち着いてきて。穏やかに眠りに付いたのを確認したら、自分も眠くなって。それで。 「眠っちまったー、はははははv」 よく見ると、悟浄は血まみれで、三蔵はまだ顔色が悪い。だが悟浄の様子に逼迫したものが無く、三蔵の呼吸が穏やかになっている事から、最悪の状態を脱したのだとは推測できる。 「あーあ。どっかの馬鹿ップルのおかげで、無駄に腹減った〜」 ばっさりと八戒に切り捨てられ、三蔵と悟浄は押し黙った。今回は、心配をかけてしまったという自覚がある分、分が悪い。 悟浄の手を借りながら、それでも自分の足で立ち上がろうとする三蔵に、何があったのか問いただしたくなるのを八戒は抑えた。とりあえず、この妖怪臭いアジトから出るのが先決だ。 「自分で歩くのは、まだ無理みたいですね。悟浄、三蔵を運んでください」 「いいじゃん、きっと似合‥‥うおっ!」 「てめぇで歩く!おい悟空、肩貸せ」 ぶちぶちと文句を言いながら、それでも悟空は三蔵に肩を貸して歩き出す。八戒と悟浄は、その姿に、顔を見合わせ思わず苦笑した。
数歩歩いたところで、不意に三蔵は悟浄を振り返った。 ヒラヒラと手を振る悟浄に舌打ちすると、再び三蔵は悟空と共に外へと向かった。 「はい、どうぞ」 火を灯して差し出されたそれは、自分のライター。八戒が拾ってくれていたらしい。僅かに目を伏せ謝意を示すと、悟浄は黙って銜えた煙草に火をつけた。 「お疲れ様でしたね、悟浄」 ライターを受け取り、ポケットにしまう。 おかえり。悟浄は心の中で呟いた。 このライターと共に、ようやく三蔵も無事に取り戻せたのだと実感する。
遠くから、三蔵の怒号と悟空がそれに反論する声が響いてくる。 「さっさと来い!置いてくぞ!」 「呼ばれてますよ、悟浄」
笑いながら、歩き出す。 あいつの元へ。
「Don't cry」完 |
最後がうまく纏まりませんでした。消化不良につき、コメントしづらいです。
これを人様に差し上げるつもりだったのかと思うと、空恐ろしいです///