「で?何がどうなってるんだ?」 「いえ、どう、と言われましても‥‥見た通りなんですが」 不機嫌もあらわな三蔵の声と、どこか困惑したような八戒の声。
All or Nothing
この奇妙な森に迷い込んでから既に3日目。ここに至るまでに三蔵たちはかなりの苦労を強いられた。 至る所に、妖術で仕掛けられたトラップがある。 あまりにも手応えの無い相手に拍子抜けした一行だったが、幾度と無く繰り返される同じ展開にだんだんと苛立ってくる。 「ああっ、もう!こんなのツマんねーよ、俺!もうちょっと強い奴が出てきてくれねーと、楽しくねぇじゃん!」 悟空もついついボヤキがちだ。 「新手の嫌がらせか?」 疲労と退屈が全員の神経をささくれ立たせる。三蔵と悟浄を取り巻く空気が、自然と不穏なものになった。 「あの〜」 「何だ」 睨みあう二人に、遠慮がちにかけられる八戒の声。二人は同時に返事をし、その事が気に入らなかったのか再び睨みあった。 「あのう、お取り込み中申し訳ないんですけど、ちょっといいですか?次のお客様が、いらしたんですけど」 確かに、いつの間にやら例の怪物がどこからとも無く出現している。 「貴様が適当に殺っとけ」 悟浄が苛ついた声を出す。無論、視線は以前三蔵に据えられたままだ。二人の子供っぽい 『眼の飛ばしあい』にため息をつきつつ、八戒は言葉を続けた。 「倒しちゃったら消えちゃうんで、その前に確認しておきたいんですが。数字、書いてありますよねぇ、あの怪物さんの胸のトコ」 言われて見れば、確かに胸のところに小さな数字がついているようだ。それもしっかり1から6。本当に、言われなければ気付かない、小さな数字。 「それが、何だ?」 「‥‥‥はい?」 思わず、悟浄が聞き返す。 「いえ、ですから。僕たちサイコロ振って進んでるんじゃないんですか?」
「「「‥‥‥」」」 三人は、八戒の言葉に沈黙した。
「えーと‥‥という事は、もしかしてこれって‥‥」 自分の方に近づいてきた怪物を殴り倒す羽目になった悟空が、またしても微妙に変わった辺りの景色をぐるりと見回しつつ、八戒におそるおそる確認する。 「すごろく、という事でしょうねぇ」 どこかのんびりとした口調の八戒に、他の三人はがっくりと肩を落とした。
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