「………なんつーか」
「拍子抜けですねえ、これは」
「だよなぁ…」
呆気なく。
本当に呆気なく取り戻せてしまった寺仏を前に、俺と八戒は楽勝気分を通り越してあきれかえっていた。
「つーか、わざわざ俺たちに依頼する意味あったわけ?」
「まあ、それは結果論でしかありませんからね、結局」
事前情報はあくまで目安。
出向いてみなければ実情などわからない、という事は俺もよくよく承知している。
軽い気持ちで出掛けてみればえらい骨折りを強いられたり、苦戦覚悟で出掛けて行けば案外あっさり事が運んだり、そんな事はざらにある。
なので、一々文句を言うつもりはこれっぽっちもないのだが。
しかし。
「…あんまりじゃねーの、これは」
ため息ひとつ、俺は目の前に鎮座している寺仏を眺めた。
YELL
「こんな事なら、やっぱどっちか三蔵についてやった方が良かったかもな〜」
快調に風を切る、ジープの助手席。
晴れ渡った空を見上げて煙草をふかしていた俺は、燦燦と輝く黄金の太陽に不機嫌絶好調だった金髪美人を思い出した。
面倒そうな仕事は大概俺たちに振ってくる三蔵だが(って、それもどうかと思うんだけどな)、振り分けもできない程絶妙に仕事が重なった今回は、仕方なく片方を自分で始末しに行っている。
てっきり他の僧に任せるもんだと思っていたんだが、法力が絡みそうなキナ臭い件だとかで、「変に事態をこじれさせるのも面倒くせぇ」と猿をお供に出かけて行った。
話を聞いた時からどう考えてもあっちの方が厄介そうだったから、一人そっちについてくか、と俺たちは言ったもんだが、それはあっさり却下された。
ぐだぐだ言わずにそっちを片付けろ、なんて三蔵は言ってたけど。
多分あいつは、今頃切れてる。うぜえ、と眉を寄せた顔まで想像できちまうんだからたまらない。
「素直に頷いとけば、ちったあ楽できたってのになぁ」
眩い太陽に目を細めながら、強情っぱりな最高僧サマをくくくと笑う。
「まあ、二人で間に合う目算があっての事でしょう。あの人だって馬鹿じゃないですから」
「そうかぁ?俺は結構馬鹿だと思うぜ?」
「…悟浄、貴方結構言いますね」
おいおい八戒、肩震えてんぜ。そこで黙って笑う方がよっぽど失礼じゃねえのかよ。
「ひっでー奴」
笑って煙草をもみ消せば、貴方に言われたくないですよ、なんて声が返ってきた。
「心配ですか?」
しばらくぼんやり空を眺めて、新しい煙草に火をつけて。
それぐらいの間があってから、ふと投げられた言葉。
心配、ねえ…。
「ん〜、別にそういうんじゃねえけどな」
妙な言い方かもしれねえけど、あいつの腕はわかってるから。心配以上に、信頼はしてる。
「じゃあ何です?」
「…突っ込むね、お前」
まあ、こいつに誤魔化しなんてききゃしねえし、今さら隠すような事も別にねえけどな。
苦笑と煙を吐き出して、俺は素直に口を開いた。
「ま、一言で言やあホトケゴコロのあらわれってヤツ?」
「…もう少しわかるように話せないんですか、貴方」
「ご多忙極まりない三蔵サマを少しでも早くご公務から解放して差し上げるお手伝いができないかという俺なりの思いやりでゴザイマス。だ〜ってさ、あんま忙しいと構ってもらえねえじゃん?」
俺は寂しがり屋なの、とニヤリと笑って見せれば、呆れたように八戒が吹き出した。
「その台詞、三蔵に聞かせてあげたいですね、全く」
「ば〜か、んな事言ったら付け上がるだけだろ、あのクソ坊主」
「おや、結構厳しいんですね」
「当然。俺はそんなに安くねえの」
本気とも冗談ともつかない会話を続ける俺たちを乗せて、ジープはひたすら走り続ける。
頭上の太陽が沈む頃には、家に帰り着けるだろう。そうしたらひと風呂あびて、月を肴に晩酌なんてのも悪くない。
見上げた太陽に笑いかけて、俺は微かに呟いた。
「せいぜい早く戻れよ、三蔵」
寂しがりな俺が、人肌恋しくなって夜の街に出掛けちまう前に。
その眼で、声で、その腕で、縛りつけて見せろと願う。
三蔵を手伝ってやれる事なんて、俺にはいくつもないから。だからこうして、黙って願う。
口には出さない、それが俺からのエール。
別に、届くとは思っちゃいない。それでも、想う心はムダではないと気付かせてくれたのはあいつだから。
(さっさと抱きにきやがれ、俺を)
挑発的なまでの想いを風に乗せて、俺は黙って瞳を閉じる。
いつかこのココロを本当に口にしてやるのも悪くないと、そんなことを思いながら。
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