ゆっくりと侵食されていく心。体。心身。
いつの間にか手を伸ばしている。
お前に向かって。
俺にも向かって。
己の独占欲に苦笑する。
お前が欲しい。
そう思った。
侵心
この日、いつも通りの団体さんを片付けて街へと向かった四人。
だが生憎そうは問屋がおろさなかった。
3日前の大雨で端は崩壊。おまけに、やっと着いた街はひとっこ一人いない。
いくら規模が大きくても、ゴーストタウンには用はない。
四人はあるだけの食料と水をその無人街からかき集め、その場を後にした。
そして数時間後、比較的に大きめな森へと入った。
辺りには霧が発生しており、視界はことごとく悪い。
が、相変わらず後部座席では悟空と悟浄がつまらない喧嘩の真っ最中だった。
「ざけんなよ!!それ俺のポッキーだろ!!?折角とっておいたのに!!!」
「ああん?ポッキーの一本や二本でピーピー言うな。女にもてねぇぞ、チビ猿ちゃ〜んvv」
「チビって言うな――――!!!」
本気で突っかかってくる悟空を、悟浄はいとも簡単に抑えこむ。
賑やかな後ろに微笑む八戒。
いつもの如く元気一杯で何よりだ。
八戒はハンドルを握りながらそう思った。
――――気にいらねぇ・・・
三蔵はこの日の朝から苛立っていた。
別に深い理由がある訳でもなく。
ただ、何となくだ。
その苛立ちの矛先は、とうとう後ろの二人にまで及んだ。
「うっせんだよ!!!てめぇら!!!!」
「「ぎゃ―――!!」」
そう、いつも通りのはずだった。
確かに、その時までは。
あれから一体何キロ走ったのだろか。
「あ」
八戒の短い相づちに、好奇心旺盛の悟空が後ろからひょこっと顔を覗かせた。
「どうしたの、八戒?」
「道、通れませんね」
「「「あ・・・」」」
八戒の困ったような言葉のあとに、他三人の気が抜けた声が続く。
眼前に広がるのは、大木が道を横たわって、通せんぼしているという何ともコメント知ずらい光景。
「どうすんの・・・コレ」
「う〜ん・・・どうしましょ〜かねぇ」
「腹減ったぁ!!」
「お前は結局それか!?」
「何だよ!しょうがねぇだろ!!」
また始まった喧嘩を横目に、八戒が腕を組んで俯いている三蔵に声をかけた。
「どうします、三蔵?これ以上・・・・三蔵??」
八戒は驚いた。
突然ジープを降りたかと思うと、一言。
「行くぞ」
三蔵の思いもよらぬこの一言に、三人は呆然とした。
先頭を悟空、それに続き、八戒・悟浄・三蔵の順で道ともいえぬ道を、それでも確実に進んでいた。
「早く早く〜!」
悟空は思いっきり遠足気分だ。
ちょこちょこ駆け回ってどんどん進んでいっては、たまにこちらを振り向き、こうやって手招きをする。
八戒は笑顔ではいはいと返してはどんどん歩みを進めていく。
もちろん、悟浄も三蔵もそれに続いて歩く。
「それにしても・・・歩いた方が以外にも早かったりして」
「だったらけっこうラッキーじゃない」
「ええ。良かったですね、三蔵」
「三蔵?」
声をかけても返事を返さない三蔵。
そこまで機嫌が最悪なのか、と不安に思う悟浄。
もう一度呼んでみる。
が、また反応無し。
はぁと溜息をついて、前を向きなおした。
たまに小休憩をとりながらも、四人は八戒が示す方向へ進んでいった。
「まだ、八戒〜ι」
「もうちょっとですからね、悟浄」
「体力ねぇ河童」
「五月蝿い。猿と一緒にすんな」
「また猿って言った〜!」
「はいはい、前向いて歩いてくださいね」
歩きながらも喧嘩する二人に半ば呆れ顔で、八戒が制す。
そんな光景を三蔵は後ろから眺めていた。
―――――くそ・・・
これで何度目だろう。
ここまで自分が愚かだとは気づかなかった。
いや、気づいていなかった。
そう言った方が適切だ。
笑う奴の顔を見るたびに、何ともいえぬ感情が芽生えてくる。
その笑顔が他人に向けられていると思うと尚更。
人間なんて弱いイキモノのくせに、強情で傲慢だ。
誰かがいなければ生きてはいけない。
その誰かが自分の方を向いていなければ、無理矢理にでもこちらに向かせようとする。
なんと愚かなイキモノだろうか。
三蔵はふとそう思った。
顔を上げれば、自分の想い人はは楽しそうに笑っている。
それが妙に苛立つ。
三蔵は少し早足で悟浄の背後まで歩み寄ると、悟浄の右手を掴んだ。
驚いたのは悟浄だ。
怖い顔をした三蔵が、自分の腕をいきなり掴んで離さずにいるからだ。
「さんぞ・・・・?」
「悟浄・・・」
少しかすれた声で名前を呼べば、悟浄はその場から動けなくなる。
それは条件反射とも言える行動。
先頭の二人は、三蔵と悟浄に気づかずに先先に進んでいってしまう。
悟浄にもそれは分かっていた。
でも動けなかった。
だって三蔵がすごく真剣な眼差しで自分を見るから。
やがて悟空と八戒の声は聞こえなくなった。
すると三蔵は悟浄を引っ張るように近くの木に悟浄を押し付け、噛み付くようなキスをした。
「んっ・・・・!!?」
突然のキス。
三蔵の舌にめちゃめちゃに掻き回され、それに感じている悟浄の体。
絡んでくる舌がやけに熱くて。
悟浄の足の力が抜けていく。
それでも三蔵は悟浄とのキスを止めない。
一体どれぐらいの時間を過ごしただろうか。
漸く三蔵の唇が悟浄から離れた。
支えがなくなった悟浄は、木に背を預けたままその場に座りこんだ。
「な・・・・なにしてんだよ、三蔵・・・?」
漸く聞けるようになった口で、三蔵に問いかけた。
すると三蔵は跪き、悟浄と同じ視線になって、悟浄の顎をくいと持ち上げた。
「ん・・・!」
「・・・・むかつくんだよ。てめぇは・・・」
「―――――は?ちょっと待てって!俺、お前になんかした?」
まったく心当たりもないことを言われ、悟浄は戸惑った。
しかしそんなことお構いなしで、三蔵は悟浄を睨んだ。
「何にもしてねぇフリして、してんだよ、河童が」
「はぁ〜〜〜!!どういうことだよ、三蔵!?」
「そのままの意味だ」
「〜〜〜〜〜ι」
悟浄は困った。
これでもかってほどに困った。
なんせいつも仏頂面の鬼畜生臭坊主。
ポーカーフェイスも程々にして、少しぐらい表情読ませてくれてもいい。
そう悟浄は思った。
そして三蔵の先程の言葉。
どう考えたって、立場的に言って悟浄の方が不利な立場にたっている。
悟浄は少しむかついて、顔を背けた。
「訳わからねぇこと言ってねぇで、もう行こうぜ。あの二人に置いて・・・・三蔵?」
「・・・・・・・五月蝿い」
「ざけんな!何でてめぇになんか・・・ッ!!?」
ぞくりと悟浄の背筋に冷たいものが走った。
三蔵の目が、鋭く、殺気をこめていたから。
そんな視線、三蔵から浴びせられたのは滅多にない。
いつもは本当にふざけた視線。
両者怒っていても、相手を誘うような視線。
なのに、今の三蔵の視線はどうだろうか?
――――――コワイ・・・
悟浄は三蔵を押し返そうと、三蔵の体を押した。
しかし、動かない。
「さ・・・さんぞ・・・・」
「・・・・呼ぶな」
「え・・・?」
「名前をいちいち呼ぶな」
「だって・・・名前呼ばなきゃ振り向かないだろう!?」
「俺じゃない!」
「だったら何だよ!?お前最近変だ!!いつもより眉間に皺寄せてるし、俺が喋りかけても素っ気無いし・・・・俺が嫌いになったなら言えばいいじゃねぇかよ!!」
悟浄は勢いに乗ってこう言った。
ぜぇぜぇとらしくもなく息を上げる悟浄。
それに引き換え三蔵は、さっきまでの視線は何処へやら。
ぽかんと呆気に取られた表情で悟浄を見ている。
そして・・・。
フワリ
「?・・・・三蔵・・・・?」
「お前でも俺でもない・・・」
「じゃあ・・・っ!」
「だから・・・・・・その・・・・・・何だ・・・・・・・」
「??????」
何?というかのように、首を傾げる悟浄。
可愛い・・・・
が、三蔵ははっとして、顔をブンブンと左右に振った。
「???な、何だよ三蔵!?だから、何だよ!」
「・・・・だから・・・・・・俺以外の奴の名前呼んで、そいつらににこにこ笑顔振りまくんじゃねぇってことだっ!!!」
「へ・・・・・・?」
三蔵は真剣だった。
だが。
「―――――ぷっ!あははははははははっ!!!!」
悟浄はうけた。
その笑いに、三蔵は怒った。
「何笑ってやがる!!?」
「だって・・・・・ははははっ!!!!」
悟浄は体を前に曲げ、腕で腹を押さえながらひーひー笑っていた。
これには三蔵の流石に腹を立たせ、勝手に笑ってろと言って、立ち上がった。
が、三蔵は歩き出せなかった。
何故なら、悟浄に袖を引っ張られているから。
三蔵は、にこにこしている悟浄の方へ、鬱陶しそうに振り返った。
「何だ、悟浄・・・」
「いっちゃヤ。」
「〜〜〜〜っ/////!!」
激プリだった。
三蔵は、はぁと溜息を吐いて悟浄の前にしゃがんだ。
溜息を吐いてみても、やはり悟浄はにこにこしていた。
いい加減三蔵も、苛立ってきた。
「で、何だ」
「ん〜・・・・・いや・・・嫉妬してくれてたんだなぁ〜・・・・って思ってさv」
「は?」
「やきもち。やいててくれたんだvv」
「知るかっ」
「何だよ〜。人が折角嬉しがっているのに〜」
今度はぶーぶーと威嚇してくる悟浄。
どっちにしろ、可愛い。
そんな気持ちを隠すために、三蔵はふんと顔を背ける。
だが絡んでくる悟浄に、三蔵は仕方ないなと言って、静かに悟浄の口を塞いだ。
「ん・・・・ぅ・・・・・はっ・・・・」
濡れた音が辺りに響く。
漸く離れた唇に、今度は悟浄がちゅっと吸いつく。
「ねぇ三蔵・・・・・シよ?」
その言葉に三蔵はまたもや溜息を漏らした。
「何、やだ?」
「・・・・・・いや、別に」
三蔵が悟浄の口筋に唇を落とす。
ザァァァァ・・・・・ッ
「あ。気持ちいい風v」
「おい、こっちを気持ちよがれ」
「ほ〜いvv」
三蔵の唇が下へとずれていく。
「あ、そう言えば。あの二人、いつ俺達に気づいてくれっかな〜?」
「一生来ねぇだろうな」
「かもねv」
「悟浄」
「ん?」
「愛してる」
ザァァァァ・・・・・ッ
「うわ〜〜〜〜〜・・・・ソレ反則・・・/////」
「こっち向け、悟浄」
「遠慮させてイタダキマース」
「ざけろ。ホラ・・・・あまり可愛い事するな。手加減出来なくなる」
「へぇ、三蔵はいっつも手加減してるわけ?」
「んなわけねぇだろうが・・・・誘ってるのか?」
「別に〜・・・・」
「ほ〜・・・・・」
『愛してる・・・』
「ッ!!だから反則だって〜のっ!!!!」
「五月蝿い」
「ったく・・・・・」
『俺も愛してる』
END
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