「ほんと…急な話ですね〜」
「早すぎるって!決めるの!」
「…ごめん」
「ゴチャゴチャ言ってねぇで準備しろ」
昨日、八戒に教えてもらいながら弁当を作り、三蔵のいる寺に出かけた悟浄が今朝三蔵と二人で戻ってきた。
その時の第一声が三蔵の『引っ越す。お前等はここで暮らせ』だった。
悟浄と入れ違いで遊びに来ていた悟空はただ無邪気に八戒と暮らせる事を喜んだ。
八戒は娘を嫁にやるような複雑な気分だったが、愛しい悟空が喜んでる姿を見て仕方なく認めた。
「準備…っていいますけど、悟浄は服しか持っていかないって…」
「だって服以外必要ないじゃん」
大き目のダンボールに八戒が綺麗に畳んだ服を入れ、買い置きしておいたハイライトもしまう。
「でも悟浄、ほんとにこの家に住んじゃっていいんですか?」
もともとこの家の持ち主は悟浄だったので八戒は少しばかり気が引けていた。
「おう、悟空と二人で暮らすにはちょうどいい広さだろ?いいぜ」
「じゃあ…住まわせてもらいますv喧嘩したらいつでも戻ってきて下さいねv
僕が面倒みますからv」
「…はは」
八戒の本気なんだか冗談なんだか分からない言葉に曖昧に返事をすると、外に止めてあるジープに荷物を積み終えた三蔵と悟空が戻ってきた。
「八戒!言われた通り洗面用具とタオル、ジープに運んだよ!」
「…なんで俺まで運ばなきゃなんねぇんだよ(怒)」
手伝いをさせられた事に腹を立てた三蔵は愛煙のマルボロを取り出し椅子に座り込んだ。
「三蔵…少しは手伝って下さい。貴方のお嫁さんの荷物ですよ?」
「嫁じゃねぇって!!///」
「…大体、なんでこんなに服があんだ!(怒)」
悟浄の服だけですでに10個以上のダンボールが、ジープの後ろに無理矢理くっつけた手押し車に積まれていた。
「旅してる間は限られた服ばかりでしたけど、普段はすっごいお洒落なんですよ」
「服集めるの趣味だったからな…あ、これとか悟空にやるよ」
「ラッキ〜♪」
早速貰った黒のシャツを羽織ってみたものの、少し悟空には大きすぎたようだ。
「少し大きいですね。後で直してあげますからv」
「…っと、コレでよし!終わった〜!!準備できたよ、三蔵」
「行くぞ…」
ジープに乗り込み、後ろの手押し車の荷物に注意しながらゆっくりと走り出した。
「悟空、落ちないように見張ってて下さい」
「わかった!なぁなぁ、やっぱ引越しそば食うの!?」
「作ってあげますよv」
八戒のその言葉に助手席に座っていた三蔵が嫌な顔をした。
「長居する気じゃねぇだろうな?」
「そんなことするわけないじゃないですかvすぐ帰りますよ、
新婚さんの邪魔したくありませんし」
笑顔を向けると、眉間に皺を寄せながら小さく舌打ちをしてまた煙草を咥えた。
「吸いすぎは良くないですよ、三蔵。悟浄も吸いすぎないで下さい」
「はぁーい」
30分ほどジープで走ると目的地の新居に着いた。
「ここですねv」
「すっげぇ綺麗じゃん!」
ドアを開けると白と黒で統一された家具がきれいに並んでいる。
「もっと大きい家を想像してたんですけどね」
荷物を運びながら八戒が部屋の中を見回した。
「なんか三蔵らしい家だよな」
「気に入ったか?」
全ての家具を見て回る悟浄に三蔵が声をかけた。
「うん、気に入った」
嬉しそうに三蔵に笑いかけると、深紅の髪を優しく撫でられた。
「三蔵!!荷物運んだからそば食わせてよ!!」
「…八戒に言え」
「じゃあキッチン借りますよv」
来る途中、街で仕入れて材料を取り出し調理を始める。
残された三人は悟浄の服の整理に取り掛かった。
そばを食べ終え、少し休んでから八戒と悟空は自分達の家に戻っていった。
最後まで悟空が『泊まる!!』とねばったのだが、八戒がどうにか宥め連れて帰ったのだ。
二人だけになった家は静かで落ち着いていた。
悟浄はコーヒーを入れ、仕事の書類をまとめてる三蔵の前に置いた。
「静かだな、悟空がいないと」
「ああ」
部屋には時計の音と三蔵が煙草を吸う音、悟浄がコーヒーを飲む音しかしない。
「なぁ、三蔵」
その静寂を打ち消すかのように悟浄が口を開いた。
「なんだ?」
「俺さ…八戒みたいに料理上手くないし、掃除や洗濯も下手だけどがんばるから…」
悟浄に視線を移すと、深紅の瞳は自分の手元にあるカップを見つめていた。
「だから…これからよろしくな」
ゆっくりと自分に向けられる深紅の瞳がとても綺麗で、三蔵は一瞬言葉を無くした。
「三蔵?」
「…ああ」
「どうかした?」
首を傾げ、顔を覗き込んでくる悟浄の手からカップを取り上げ、抱き寄せた。
「うわっ…三蔵?どうしたの?」
「見るな…」
肩に顔を押し付けたまま、抱き締める力を強くする。
「なんで?」
「…顔が赤くなってんのが自分でも分かるんだよ」
意外な三蔵の言葉に今度は悟浄が言葉を無くした。
「悟浄…幸せにしてやる…必ず」
「…うん」
こうして二人は、お互いのぬくもりを感じ合いながら幸せに暮らした。
終わり |