初めて身体を重ねた時に知った。
「なんだ、これは。」
「見ての通り。タトゥ―。」
「なんで、こんなもの入れてんだよ。」
「・・・理由いんの?」
悟浄の右足の太ももの内側に彫られたそれは、見事なまでの蜘蛛の刺青。
蜘蛛。
長い毛に覆われたその蜘蛛は、猛毒のタランチュラ―
悟浄は三蔵の金の髪に指を絡めて、彼が蜘蛛へと口付けるのを笑みを浮かべて見つめていた。
蜘蛛
悟浄に惹かれた理由なんて知らない。いらない。
三蔵はそう一人ごちる。
あの髪と瞳の色、顔立ち、表情、身体。その全て。
悟浄というひとつの結晶であるからこそ自分はあの男に惹かれたのだと。
好きだなんて軽いものではなく、愛してるなんて変わるものではなく、あの男がいる限り永遠に囚われ続ける呪縛。
けれど、それを承知で。いや、自ら望んでそうなったのだと。
初めて身体を重ねたあの夜。悟浄の刺青の蜘蛛に何度も口付け、なぞった。
生きているわけではないソレが、生々しいまでの存在感と熱さを伝えてくるのをただ感じていた。
悟浄が薄笑いを唇に浮かべていたのも知っている。
まるで、それは―
蜘蛛が悟浄に彫られていたのではない。
あの男自身が蜘蛛だ。
自ら狩りをするタランチュラ。悟浄は自分から獲物を捕らえる。
そして?
蜘蛛の食事はシンプルだ。獲物の体液を吸い尽くすのみ。
ならば、あいつは俺を吸い尽くすのだろうか。
最後の一滴も残さずに俺の命を奪い取るのだろうか。
思いついたその考えは信じられないほど甘美で。身体の芯から歓喜が湧き起こって来る。
きっと。
悟浄と共にいることは自分の命を削り続けることなのだろう。
それでも、あの男が自分の紅い血をすする幻想は、自分を捉えて離さない。
甘い呪い。辛辣な喜劇。
今夜も三蔵は悟浄の元を訪れる。
服を脱ぎ捨てた悟浄の足にいる蜘蛛に口付ける。
「・・・気に入ったの、それ?」
「・・・お前だな。」
「は? 何それ?」
本当にわからないのか、それともわかっていて知らぬ振りをしているのか。
悟浄の口元を彩るのは婀娜っぽい笑み。
雄を喰らい、その身を己の糧にする蜘蛛の雌のような、禍々しいまでの色香。
その瞳の檻の中の自分を見つめる。
まるで死に向かう殉教者のような迷いの無い表情で。
けれど、自分が殉じるのは、教えなどという薄っぺらいものではなく。
愛などという偽りに満ちたものではなく。
ただ、目の前の紅い男なのだと。
そう思ったら、なぜか笑えた。
笑う俺に手を伸ばし、悟浄が薄笑いを浮かべた口唇で口付けた。
甘く苦く―死の香りのする口付け、だった。
捉えた獲物に対する最大限の愛情と憐れみと酷薄さを含んだそれは。
蜘蛛の、口付け。
―終―
|