「俺は絶対に外さん。」
そう言って悟浄を撃ったけど、本当は自信なんてなかった。
ただ、ここで慌てたりしたら清 一色の思い通りになるから・・・
平気な顔をして撃った。
清 一色の狙いは八戒を“殺す”ことではなく“壊す”こと。
ヤツが何故そこまで八戒に執着するのかはわからない。
けれど、このままにしておくわけにもいかなくて・・・。
「さん・・・う、三蔵!」
「・・・・。」
「おーい、三蔵。三蔵様〜三ちゃん〜?・・・おいハゲ。」(三蔵ファンの方ごめんなさい)
「殺すぞテメェ。」
悟浄が何度読んでも返事をしない三蔵にしびれを切らし、
冗談が半分とやけくそが半分で言った言葉に三蔵が反応した。
「なんだよ、聞こえてるんじゃねぇか。
・・・しかしハゲに反応するなんて、気にしてんの?」
悟浄の言葉につい、
「うるさい。用事もねぇのに呼ぶな。」
八戒が倒れ悟空がジープに水を取りに行ったまま戻ってこないイライラを
大声を出すと言う形で表してしまう。
「――なぁ三蔵。勝負しようぜ。」
「あぁ!?」
そんな三蔵の気持ちを知ってか知らずか、三蔵の嫌みを軽く聞き流した悟浄が笑顔でどこに隠し持っていたのかトランプを出す。
「・・・っ!!何を考えてやがる。」
「負けるのが恐いのか?」
明らかに怒っている三蔵をあざ笑うかのような悟浄の笑みが、
一層、三蔵の血圧を上げる。
「やってやろうじゃねぇか。」
10分後・・・・
「――っ、なんなんだ。こんなことして貴様に何のメリットがある!?」
いつのまにか用意されていたちゃぶ台をひっくり返さんばかりの勢いで言う三蔵に、
「勝てないからって怒鳴るなよ。・・・メリットならあるぜ?」
「何が――。」
「俺に勝てたら教えてやるよ。」
余裕げな悟浄に怒りを覚えた三蔵が怒鳴ろうとすると、
その言葉を知っているかのように、悟浄が言葉を繋いだ。
行動が読まれ、再び怒ろうとした三蔵だったが、
八戒が隣で寝ていることを思い出し、何とか押さえた。
さらに10分後・・・
「おれはコレで良いよ。」
そう言ってカードを取るのを止めた悟浄の顔が自信たっぷりなのに気づいた三蔵は、
「もういい。」
と短く答え、悟浄の合図で一緒にカードを見せる。
「・・・どういうことだ。」
三蔵のいつもより1オクターブ低い声が響く。
そんな三蔵を慌てる様子もなく見つめる悟浄。
三蔵がおかしいと思うのも無理はない。さっきの悟浄の顔は勝利を確信した笑みだった。なのに、自分の出したカード、『ツーペア』に対し悟浄が出したのは『ワンペア』なのだから。
「別に。三蔵様が勝つ気がねぇようだったから、これでも勝てるかと思ったんだ。」
勝負では勝ったのに、そう呟く悟浄の顔が妙に誇らしげで・・・。三蔵は負けた気がしてならなかった。
「ふんっ・・・何か言いたそうだな。」
「・・・・。」
「『悟空が居なくなったのはお前の所為じゃない』・・・そんなところか。」
カードをケースの中に入れるために下をむいていた悟浄が顔を上げる。そして苦笑いに近い笑みを浮かべると、
「そんな気休め、必要ないだろ。」
『お前のせいじゃない』その言葉の意味のなさを知っているから。
決して口には出さないけど、そう心の中で呟いた悟浄。
兄の爾燕が弟の悟浄を庇って、実の母を殺した時に何度も悟浄に言った台詞が、
「お前の所為じゃないから・・・。」
だった。
だからこそ絶対に言ったりしない。口先だけの気休めなんて。
「俺が勝ったんだ教えろ。」
黙り込んでいた悟浄にそう言う三蔵。
その言葉にうっすらと寂しそうな笑みを浮かべた悟浄は、
「何かを成し遂げるのに理由なんて必要なのか?・・・俺はただ、今、が何をなすべきか考えただけだよ。―――道は一つじゃないんだろ?」
自分が行きたい道は自分で選べばいい。大切なのは過去ではなく未来だから・・・。
過ちを後悔するよりも今を生きるのが先決だから。
そんな悟浄の考えに、内心救われた気がした。
「負けない強さよりも負けて立ち上がる強さの方が尊いときもあるんだ。・・・大切なのはこれからだろ?」
そう言って立ち上がり、悟空を探してくると呟いた悟浄に声を掛けず、ただその背中を見送った三蔵は、隣で寝ている八戒に視線を移しながら、
『お前も俺もあいつにはかなわないな。』
と心の中で思ったのだった。
この後、八戒が目覚め、清 一色と、もう一戦交えるのだが、
それはもう少し後のお話・・・。
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