ゲーム(10000HIT記念駄文)
「雨、止みませんねぇ」 ジープでの移動中、突然振り出した雨は、その雨脚を弱める気配が無い。 ただでさえ、雨の日には不機嫌なことが多い三蔵は、この不自由なスペースに、閉口していた。 「三蔵、煙草は止してくださいよ、こんな狭いのに」 「あー、暇だ暇だ暇だ!腹も減ってきた感じ〜!」 悟空の無邪気な問いに、八戒はわが意を得たり、とばかりに頷く。 悟浄の呆れたような声を無視し、八戒は首を傾げる悟空にルール説明を始めた。 「まず、スタートの人が『せんだ』と言って誰かを指す。指された人は『みつお』と言って誰かを指す。指された人の両隣にいる人が『ナハナハ』と言い、最後に指された人の右隣の人が次の『せんだ』を指す。スピードが勝負のゲームですから。0.5秒以上考えたり、間違えたりしたらアウトです―――わかりましたね?」 「うわ。さり気に変則入れてんな、お前」 「ちなみに、『ナハナハ』のポーズはこれです。やらなければ失敗とみなします」 「――くだらんな。俺は絶対やらん」 あからさまな八戒の挑発に、止せばいいのについ乗ってしまったことを、三蔵は後に思いっきり後悔する羽目になるのだった。 「ところで、罰ゲームって何?」 「『隠している自分の秘密v』の公表です」 何故に断定なのか。三人の心に浮かんだ疑問は、八戒の不思議な迫力に押され、誰一人口に出せずじまいだった。 「では、僕からいかせて頂きます」
だが、一度目の勝負は、すぐに終わった。 やはり、ルールを把握していない悟空が最初につまづいたのだ。 「さあ、悟空。秘密をどうぞ」 「分かりました。じゃ、「自分の秘密」じゃなくても「誰かの秘密」でいいですよv」 何いっ!?悟浄と三蔵はその場で目をむいた。 「おい、八戒!それじゃあ、負けた奴の罰ゲームになってねぇじゃ‥‥‥」 理不尽としか言いようの無い理屈を掲げ、ますます妙な威圧感をたたえる八戒に、う、と悟浄は言葉を詰まらせた。 「八戒‥‥」 最初から計算されていた事だったのだと、ようやく気付く。ゲームを始めたのも、悟空が負けるようなものを選んだのも。 三蔵は自分の迂闊さを呪った。 「人聞きの悪い。ゲームですよ、純粋な」
八戒と三蔵の、底知れぬ威圧感に挟まれ、悟空は身が縮む思いを味わっていたが、どうやら軍配は八戒に上がったようだ。意を決したように、悟空は言葉を発した。 「じ、じゃあ、言うよ。ごめん、三蔵!」 やはり、三蔵か。八戒は内心ほくそえんだ。そして悟浄はと言えば、自分の知らない三蔵の話を聞けるチャンスに、耳がダンボになっていたが、三蔵の不機嫌オーラに遮られ、表面上は無関心を装っていた。 「あのさ、前に、八戒たちと最初に会った時の事、なんだけど」 何を言い出すつもりかと、三蔵が悟空に静止の言葉をかけようとするのを、八戒が遮る。悟浄はその場の雰囲気から取り残され、全くの傍観者だった。―――幸運なことに。 そして悟空は、一気に言葉を紡いだ。 「三蔵、寺に帰ってきた時、部屋にあった赤いもの、全部片付けましたっ!終わり!」
「――えっ」 それって、それって、もしかして。悟浄は信じられないと言った表情で三蔵を見た。 「何だよ〜、だからゴメンて言ったじゃんか〜」 「三蔵‥‥」 横を見れば、妙にキラキラとした目で自分を見つめてくる悟浄の姿があった。 「お前って、本当は俺に最初っから惚れてたんだな?」 「さあさ、痴話喧嘩はそれくらいにして。続き、いきますよv」 「ひえ〜」 世にも珍しい、三蔵のせんだみつおゲーム一人芝居‥‥。 辺りに響き渡る、三蔵の怒号と悟空の叫び声。 やがて再開されたゲームを支配する、恐ろしいまでの異様な緊迫感に、男たちは雨がとっくに上がっていることなどには気が付かないのだった。
「ゲーム」完 |