3万打特別記念駄文

「愛、燦々と」

 

最近の、俺の日課。
 

夢の中で、お前を探すコト。

金色の髪は目立つから、すぐに見つかるだろうと思うのに。
何処にいたって、見つけてみせると思うのに。
 

どうしても、見つからない。見つけられない。
 

 

そして目が覚めて、またお前の姿を探す。
 

もしかしたら、先に起きて、一人でコーヒー飲んでたりするんじゃないかと。
性格の悪いお前のことだから、俺を驚かせようと、どこかに隠れてるんじゃないかと。
家中、探してみたりする。

やっぱり、見つからない。
 

そして、思い知らされる。
お前が、どこにもいないことを。
 

今日も、また繰り返す。
 

 

ずっと一人だったのに。
一人に戻っただけなのに。
 

お前が、いない。
それが、こんなにも胸を締め付ける。
 

――辛いよ、三蔵。
 

 

 

『俺の後は追うな』

そう言ってたよな。紫の瞳を、少し眇めて。

ズルいよ、お前。
言うだけ言って、さっさといっちまいやがって。
 

 

お前の言いつけなら、俺が守ると思ったんだろ?

甘ぇんだよ。
 

悪ぃな、三蔵。
俺、約束破るわ。
 

 

握った包丁は冷えた光を反射して、魅惑的に俺を誘ってる。

 

お前のせいだ。

俺を残すから。
一人で、残すから。
 

俺、結構、頑張ったんだぜ?
お前がいなくなっても、ちゃんと普通に生活して。
誰とも話さなかったり、笑わなかったりしたけれど。
掃除して、洗濯して。

今度会ったら、褒めてくれよ。
 

不思議だな。
お前はいないのに。どこにもいないのに。
普段通りの生活してる自分がいて。
 

 

けど、もう限界みたいだ。
お前のいない日々は、あまりにも空虚で。
これ以上、耐えられない。
 

怒るだろうな、お前。
ゴメンな。
約束破って、ゴメンな。
 

じきに、行くよ、俺も。

『仕方無ぇ奴だ』
そう言って、笑ってくれ。
 

真っ赤に染まった手を、俺は歓喜に震えながら眺めた。
意識が、朦朧としてくる。

もうすぐだよ、三蔵。

 

もうすぐ、
 

お前‥‥に、
 

 

‥‥会え‥‥る‥
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、いま帰ったぞ〜、悟浄」
「さんぞ〜!!!お帰り〜〜!!」

チャイムの音もそこそこに、開かれたドアから顔を覗かせた三蔵に、悟浄は思い切り抱きついた。

「何だ、何泣いてんだ。たった3日会えなかったぐらいで」
「何だじゃねーよ!寺に泊り込むのは2日だって言ってたじゃねーか!昨日帰る予定だったのが1日も延びたんだぜ!俺もう、絶対今日は寺まで追いかけるつもりだった!」

「後は追うなと言っただろう?」
こいつぅ、と額を人差し指でつつくと、悟浄はぷうっとむくれる。
「だってよぉ、寂しかったんだもんよぉ〜」
うるうると涙目で見つめてくる悟浄に、三蔵は鼻血を噴きそうになった。

「‥‥悪かった。雑事に手間取ってな」
涙声で訴える悟浄の背中を、三蔵は優しくさする。その仕草で機嫌が直ったのか、悟浄は三蔵から離れると、いそいそと何かを取り出してきた。

「実はさ、三蔵に差し入れしようと思って、弁当作ってたんだよ。見てくれよ、ホラ!このミニオムレツなんか、自信作だぜ!?」

そこには、どう見ても成人男性が食するとは思えない、原色とりどりのおかずが詰められたラブリーな弁当があった。
例えばウィンナーソーセージ。当然、形はカニとタコ。
お約束のリンゴのウサギは外せない。
ご飯の上にはさり気なく海苔で『LOVE』とか書かれている。

「ああ‥‥旨そうだな」
三蔵はその弁当に微塵も臆することなく、実に嬉しそうに目尻を下げた。

「上にのってるケチャップのハートがイケてるだろ?俺、三蔵がどんな顔してこれ食べてくれるのか想像してたらつい力が入ってさ〜。思わずトマトソース缶、握り潰しちまったぜv」
「馬鹿だな‥‥怪我しなかったか?どの缶だ?こいつか‥‥貴様よくも、俺の悟浄を!」
三蔵は足元に転がる見事にへちゃげたトマトソース缶をゲシゲシと踏みつけた。

「大丈夫だよ、ちょっと手がトマトソースまみれになって、まっ赤になっちまったぐらい。それよか弁当食べてみてよ。出来上がった時には『これで三蔵に会える!』って嬉しくなっちまって、俺、一瞬気が遠くなったぜ、マジ」

「あんまり可愛いこと言うんじゃねぇよ‥‥」
三蔵は感極まった様子で悟浄を抱き寄せた。

「ゆっくり馳走になるさ。お前ごとな」
「三蔵‥‥」

「会えなかった分、可愛がってやるからな。ちゃんと我慢できたか?浮気しなかっただろうな?」
「当たり前だろ!たった3日じゃねーか!‥‥その‥‥ちょっと、お前の事考えながら‥‥自分で、シた、けど‥‥」

「悟浄‥‥」
 

 

 

 

 

「そのたった3日で大騒ぎしてんのはどこのどいつなんだよ‥‥‥」
「あまり見ちゃいけませんよ。馬鹿がうつりますよ、馬鹿が」

三蔵と悟浄が熱い抱擁を交わしているのと同じ部屋で、八戒と悟空は差し向かって煎餅をパリポリと食べていた。

「大体、『三蔵がいなくて暇だから遊びに来い』っつったの、悟浄だろ?台所でぶつぶつ言ってるから、メシでも作ってくれてるのかと思えば‥‥三蔵の弁当かよ。しかも、弁当箱までハート型じゃねーか。‥‥どんな顔して買うんだろ、あんなの」
「僕たちがここにいるって事思い出させてあげないと、ここで始めるでしょうね、あの二人。‥‥‥面倒くさいから、帰りましょうか」
「玄関行くまでにあの二人の横通るの嫌なんだけど、俺」
「対バカップルの忍耐力を身につける修行だと思いなさい」
 

何故にそんな忍耐力をつけねばならないのか。
悟空は、三蔵に拾われた事を、ちょっぴり後悔するのであった。
 

 

「愛、燦々と」完